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Moffie(原題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

Moffie(原題)(2019年製作の映画)
3.5
【黒澤明『生きる』をリメイクしたオリバー・ハーマヌス監督が描く群の中のネズミ】
黒澤明『生きる』のリメイクがもうすぐ公開される。日本では、脚本を手がけたカズオ・イシグロが注目されているが、実は監督は南アフリカ出身でそれがより一層このリメイクを異様なものにしている。そして、この南アフリカ出身の監督オリバー・ハーマヌス監督がいかに難しいテーマを丁寧に、そして大胆に描いてきたかはまだ日本では知られていないように思える。人種差別と同性愛嫌悪を公言している男が、実は同性愛者で、その葛藤が暴力性を生み出していることを描いた『Beauty』は、思わず背筋が凍ってしまうような場面の連続で強烈な作品だった。

『Moffie』でも同性愛をテーマしていると小耳に挟んだので観たのだが、これまた強烈な作品であった。

青年は兵役のため、列車に乗り込む。狭い車内で、ゲロを吐く者、騒ぐ者、酒を飲む者入り乱れる。しかし、列車が停まると、一斉に男たちが窓から身を乗り出し、罵声を浴びせる。青年は窓の外を覗く。そこには黒人男性がいた。アパルトヘイトの時代。ターゲットとなった黒人は、白人たちによる罵声の餌食になったのだ。仕舞いにはゲロ袋を投げつけられてしまう黒人。青年は傍観者として見つめるしかなかった。

しかし、傍観者であった彼は当事者になりかける。兵役中は、ひたすら訓練を繰り返す。ようやく訓練が終わると、兵士たちは部屋で殴り合いをしたり、上下関係を見せつけるようなマウントを行ってくるのだ。青年に攻撃的な眼差しが注がれる。しかし、ここで自分が同性愛者だと分かると大変なことになってしまう。青年はひたすら沈黙し、目の前を生きる。思索・回想すること以外はほとんど聖域がない状態で彼はひたすら耐える。

絶景、美しい音楽を対位法として用いて息苦しさを増幅させる演出が特徴的となっている。

『Beauty』の場合、自身の同性愛を否定するように加害に走る男を描いていたが、本作では内に閉じ込めておく男が描かれている。まさしく、蝶番な関係となっている作品であった。どちらもびっくりするぐらい怖いシーンがある。『生きる LIVING』ではどんな、驚きのシーンを入れてくるのか楽しみである。
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