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シークレット・オブ・ウーマンのpikaのレビュー・感想・評価

4.5
僅か103分でリンクレイター監督のビフォアシリーズ3作全部見たような濃厚さ。
子供もいる4人の女性が共に出張へ行った夫達の帰りを待ちながら「たかが夫に会うだけなのに」と言いつつもソワソワしたり服を着替えたりしているところに、お茶のついでにと女だけの告白タイムが始まる。

3人の女性の告白エピソードと現在のティータイムが交互に描かれていて、各エピソードは女性であれば自分の経験だったり友人や知人の噂だったりとよくあるベタな過去物語であるが、それぞれジャンルがガラリと変わるようなテイストで描かれているのでまるでオムニバス映画のような抑揚があり、飽きるどころかめちゃくちゃ面白い。

一つ目のエピソードは「告白」の名に相応しい夫婦の過渡期を丁寧なドラマで表現している。どんなに傷つけあい絶望して死に逃げたいと思っても踏みとどまらせるのは「孤独への恐怖」なのだろうか、何不自由なく安定した生活を送ることが幸せなのだろうか、この世で結ばれた唯一の相手である夫や妻という存在の在り方を考えさせられる。

二つ目のエピソードは、照明や光と影を用いた表現主義的な演出で描かれていてとても幻想的、そしてめちゃくちゃカッコ良いショットばかりで男と女の出会いからラブラブ期、そして転機と人物の苦悩や想いを言葉で語らず共有させるかのように響かせる。中期ベルイマン作品を彷彿とさせる映像表現の畳み掛けが非常に魅力的。

三つ目のエピソードでは、ベルイマンの初期作から後期作までバランス良く映画に出演し続けた常連のグンナール・ビョルンストランドが出てきてくれて和みまくり。「愛のレッスン」「夏の夜は三たび微笑む」と同様またもやエヴァ・ダールベックとコンビを組んでいて、エヴァの肝っ玉母ちゃん然とした女性の理想像を体現してるような逞しく美しく可愛らしい感じが素晴らしいし、シリアスに進んできたのにこの2人でコメディぶっ込んできてフワッと空気が流動してスカッと爽快な気分!笑(キャスト欄に名前がない)
熟年夫婦の余裕とも取れる安定した空気感の中に、長い年月を過ごしてきたからこそ生まれる不安や秘め事を互いに躙り合うよう会話に会話を重ねるコミカルさが絶妙でたまらない!


夫婦の過渡期、出会いと成り立ち、熟年期とさらには現在のタイムラインで起きる少女と少年の恋に恋する物語までをも盛り込んでいる多様性と、それらを見事なまでに綺麗にまとめあげた完成度、なかなかに類を見ない鮮やかな傑作だと思う。
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