ゆきゆき

オッペンハイマーのゆきゆきのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
3.8
「原爆の父」と呼ばれた物理学者の一代記。異なる時代の時系列が並行して進むため、予めオッペンハイマーの人生について、大まかな流れを知っていないと取っ付きづらいかもしれない。自分は前知識は殆どなし。それでも作品内容については難解とはならず最後までスクリーンに釘付けになったのは、オッペンハイマーの人生に一貫して寄り添っているからだと思う。

爆破実験を行えば爆発が連鎖して地球ごと破滅を迎えるかもしれない。原爆開発の当初の競争相手だったナチスは崩壊した。残った日本も降伏寸前。それでも誰も実験中止を主張せず、平和の建前の基に多くの人の思惑によって原爆の開発は進んでいく。これはアメリカに限らず、どこの国であっても他人事ではない。

あくまでオッペンハイマーの視点なので広島・長崎の惨状は描写されない。しかし原爆被害者の様子と、それを聞いた彼の苦悩は十分に描かれており不足はないと思う。むしろ直接現場を見ていない彼があそこまでショックを受けたという事実が重要。この思いが他の多くのアメリカ人にもありますように。あと興味深かったのは、オッペンハイマーが共産主義と近しい立場にいたこと。戦後の赤狩りはアメリカの負の歴史の一面でもあるのだな。

一方でこの映画はオッペンハイマーという人物の伝記でもあるため、話のスケールに反してラストは一個人の人生の結末に収束してしまった感はある。『オッペンハイマー』を経て、ハリウッドが今後どのように原爆以後の現実世界を描いていくかが楽しみかな。
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