YasujiOshiba

オッペンハイマーのYasujiOshibaのレビュー・感想・評価

オッペンハイマー(2023年製作の映画)
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イタリア版BD。24-30. 二枚組。本編とエキストラ。メイキングはよくできている。オッペンハイマーのドキュメンタリーも収録。これは明日にでも見よう。

本編は最初は英語でイタリア語字幕にしていたが、途中からイタリア語で英語字幕に変更。こっちのほうが入り込めた。映像が抜群に良い。音楽がよい。役者が良い。そしてメッセージが強烈。

物語の始まりは「核分裂の連鎖反応が起これば、制御できず、地球の大気圏まで焼き尽くすのではないか」という仮説。この恐ろしい仮説から始まると、映画はこの仮説を目指して進んでゆく。みごと。

みごとなのは、文字通りのリアリティ。リアリティは手触りからくる。ぼくらの世界は手を伸ばすところにある。それを見つめるレンズと、それを高解像度でとらえるアイマックスフィルム。そしてデジタルの合成ではなく、生の演奏者たちが編み上げる調べが、目に見えない素粒子の波動と響き合う。

同じように響き合う人間の情動。理念は欲望へ、欲望は権力へ、権力はイデオロギーへ、イデオロギーは盲いたポピュリズムへと転がりながら、起動したマシンをもはや制御することができず、ただそれが世界を焼き尽くすのを見ているほかはない。そんな悲しさにぼくらの胸がえぐられてゆく。

その悲しさは、過去に消えることなく、時空を超えて空隙をぬけ、今のこの瞬間に顔をだす。ハッとさせる時間イメージがみごと。みごとな脚本。そうなのだ。それはまだ進行中なのだから。
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