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三度目の、正直のbombsquadsのネタバレレビュー・内容・結末

三度目の、正直(2021年製作の映画)
4.2

このレビューはネタバレを含みます

20221108 自分用忘備録
ハルを演じた川村りらさんの人物造形に圧倒された。その目の力の強さにも。すごいカットバックをみせてくれているところにも。

映画にはエンパシーを掻き立てられた。

特にハルについてそうだが、あまり説明的ではなく、人となりとはシーンに沿って、川面の飛び石のように表出していく。見る側は進行とともに明らかになり増していく手がかりに基づいて、人物像を結び直す作業をその都度繰り返しさせられる。その度に、以前の場面も再理解して、新しい姿や関係性がそこに立ち現れていることに気がつかされる。

そんな風に、消化しやすい作品では全くなく、見る側に精神的な作業を多く要求してくる映画になっている。その労力の大きさを感じさせないのがこの映画の人物造形の素晴らしさで、むしろ「この人をもっと知りたい」と思わせて映画に惹きつけられる要因にさえなっている。

特にハル。その姿は冒頭からすでに隈取が深く、発する言葉、みせる姿の生々しさからも、確固とした設定に基づいた人間であることが直感的に伝わってくる。その力が見るものに映画を凝視させ、目が離せないという思いを強くさせる。エンパシーが掻き立てられる。すごい。


「三度目の、正直」に挑むハルは、実際には何に挑んでいたのか。死産した生人、手元を離れる義娘ラン、三度目に、天から授かったような生人(アキラ)。

「自分の子」と安定した持続的な愛着関係を築く三度目の機会を掴もうとしていた。とはハルもそうも取れることを言っているし、実際そうもみえるが、「自分の子への執着」から三度目にしてとうとう「きちんと回復する機会」を掴もうとしていた、というのが本当だろうと自分は思う。

生人(アキラ)との関係は最初から終わりを内包しているもので、成熟した言動を基調とするハルが、そのことを真に理解していなかったとは思われない。「記憶喪失が本当でも、そうでなくてもいい。ランのことを考えずに済むから」ハルは別れを受容できずに苦しんでいた。そこに現れた生人(アキラ)なのだ。ランの代わり、生人の代わりを求めたのではなく、ランとの、生人との、別れを受容する契機とその道筋とを求めていたのだと思う。

「もうええかって思ったときにはじめて手渡されるものってあんねんなって」

「三度目の喪失(を通じた自己治癒)」の機会を得たハルは、生人(アキラ)を失うことで、真に失われたものと、実はその手に残っているものとを仕分けて、別れを受容することに成功したのだと思う。

再婚だった総一郎とは、関係を最終的に清算し「ランとだけは繋がってたい。別にお母さんやなくていい、ランの人生を見守りたい。念書もかいて」という。前夫の大藪に総一郎とのことを「そんな簡単な感情やったら、もうとっくに楽になってるわ」といっていたハルからは遠いところにまで辿り着き、清算するものと大切にし続けるものとの整理に成功している。ランとの関係はこれからの自分次第であり、自分はそれを大切にし続けていくのだという確信が見て取れる。

アキラを見つけたら連絡するという樋口には「あなたが好きなようにしてきたから、生人(アキラ)もちゃんといまそうしてる。だから私たちのところに帰ってこない」と応じて「確かにいたんです」と死産だった生人を喪失した実感をその手に握り受容したことを明かす。「アキラくんは素晴らしい子やと思いました」「私はもういいんです」最後にアキラをアキラと呼んで、心の決着が表明される。

「みじめやないねんもん。私には生人(アキラ)がおる。神様がくれた贈り物やと思ってる」その通りになった。奇妙な方法を通じて、ハルは自己治癒へと辿り着き、生人(アキラ)を神様からの贈り物にした。

「日の出を見たい」そう言って2人が別れた地元の海に、ハルは花を投じる。生人への弔花でもあり、アキラへの別れの花束でもある。アキラも、どこかの夜明けの海で「母」を思っている。

ハルが花を投じたのは「海、そこの。つらい記憶を吸い取ってくれる気がすんねん」と話したあの海だったことだろう。


【蛇足として恐い想像を】
一度目とは実は「祖父からの性加害」のときにあったのではないか、その体験がその後の妊娠に影響を与え、あるいは「里親募集」に惹かれる遠因になっているのではないか。空き巣に遭ったあと「一人の暮らしに戻りたい」と吐露する母への視線はほとんど復讐者のそれではなかったか。単に安定した愛着関係を「手ずから育んだもの」との間に求めてたまたま実家をその場所に選んでいたというよりは、その姿の目撃者であることを実母に強いていたのではないだろうか。虐待の結果、宿っていたのかもしれないものを、実母に見せつけていたのではないか。実母が振り返るほどの視線を背後に向けたときに見据えていたのは、自分へと連なり、その先にも連なる(かもしれなかった)血の、家族の系譜ではなかったか。
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