銀色のファクシミリ

茶飲友達の銀色のファクシミリのレビュー・感想・評価

茶飲友達(2022年製作の映画)
4.7
『#茶飲友達』(2023/日)
劇場にて。結論から記せば、年間ベスト10級。実際の事件から着想を得て作られたオリジナル脚本作品。脚本は外山文治監督ご本人。社会問題を深く描きつつも一本の映画として面白く、ひとつひとつのシーンに噛みしめられるほど味がある。褒めるところばかりの傑作でした。

感想。新聞に載せられた「茶飲友達、募集。」という小さな広告。それは高齢者専門の売春クラブへの入り口だった。序盤はクラブがいかに高齢男性の客を集めるのか、いかに高齢女性をコールガールに誘うのかが描かれる。

客やクラブで働く人、様々な人人にスポットライトがあたる群像劇ではあるが、クラブに入ったばかりのスタッフなど、フラットな立ち位置で状況を目撃しつづけたり、疑問をもったり、問いかけしたりする、観客の依り代として行動する人物は登場しない。その役目は、観客それぞれに任されているようで、この危うさばかりの組織と関わる人々の姿を、ただただ見守ることになる。

主人公ポジション不在の物語はどう転がるのか予測しづらく、加えて外山監督の演出力で群像劇で浮かぶ諸相に引き込まれ、飽きる暇がない。

特に印象的なのは、ある人の車内での醜態と最後の言葉。落ちるところまで落ちた人でも持っている最後の一線。あの世代の人の最後のプライド。その場面と対照的に描かれているのが、役所での相談シーン。ある人物が毅然と拒んだことを、この場面の人物は食い気味で望む。困っているのは同じだけど判断は違う。世代の違いであり立場の違いでもある。場面と場面に重層的な繋がりがあり、それが場面ごとの時間以上の味わいを生む。とても好き。

群像劇でありつつ、物語は「茶飲友達」のリーダー、佐々木マナ(岡本玲)を主軸として進んでいく。クラブのスタッフ、コールガールを「ファミリー」と呼び、団結を謳う彼女の言葉は嘘か誠か。そもそも彼女は何者なのか。

中盤以降に起きる二つの事件。マナの判断と行動で、彼女の掲げる「ファミリー」と、彼女の心情と信条が明らかになる。その本質を、若葉さんの関わる「エプロン」のシーンで語られているのも面白い。コールガールのプライドと、客との理想の形を語った場面だけど、若葉さんの「これくらいが〇〇な△△感」という表現は、茶飲友達という「ファミリー」の、真の姿であると思う。時に理想のホワイト企業にも見える「茶飲友達」という組織。だが最後に描かれる「ファミリー」と「家族」の違い。そして「ファミリーの母親」と「家族の母親」の違いが描かれる。高齢者の孤独感と若者の閉塞感を絡ませ、最後に問われる家族と母親の姿。ともすれば詰め込み過ぎで散漫、ありがちオチで良さげなだけの物語になりそうなところを、きっちり深く美しくまとめられているのも素晴らしい。

さらにこの映画、ある意味で「理想の姿」のシーンで終わるのだけど、この人の姿が理想とは程遠いことは、ここまで映画を観ていた誰でも分かること。このラストは見た目そのままでスルーするのではなく、もう少しだけ誰かのために想像を働かせませんか、というメッセージと思いましたよ。感想オシマイ。

追記。現実の「茶飲友達」事件での組織のリーダーは、70歳代の男性だったそうで。この映画でも現実どおり、もしくは若い男性をリーダーに配すると、この組織に「男性による女性の性搾取」という別の問題が浮かんできてしまい、この作品のテーマがぼやけでしまう。だからこその若い女性リーダーであり、この作品が何を語る映画かがはっきりしている証左だと思いました。

あと売春クラブの映画という紹介で引かれてしまう女性の方もいらっしゃると思いますが、ポルノ映画ではありませんし、レーティングもPG12。オススメの傑作映画ですので、よろしければ。追記もオシマイ。