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ベルファストのkuuのレビュー・感想・評価

ベルファスト(2021年製作の映画)
4.0
『ベルファスト』
原題 Belfast.
映倫区分 G.
製作年 2021年。上映時間 98分。
俳優・監督・舞台演出家として世界的に活躍するケネス・ブラナーが、自身の幼少期の体験を投影して描いた自伝的作品。
ブラナーの出身地である北アイルランドのベルファストを舞台に、激動の時代に翻弄されるベルファストの様子や、困難の中で大人になっていく少年の成長などを、力強いモノクロの映像でつづった。
ケネス・ブラナーは、自然発生的な瞬間をとらえるため、ジュード・ヒル(バディ)がリハーサルだと思っているシーンで、しばしばこっそりとカメラを回していたそうです。
やがてヒルは何が起こっているのか疑い始めたので、スタッフはカメラが回っていることを示す赤いランプをテープで覆った。
完成した映画の多くのシーンは、この "リハーサル "だったそうです。

ベルファストで生まれ育った9歳の少年バディは、家族と友達に囲まれ、映画や音楽を楽しみ、充実した毎日を過ごしていた。
笑顔と愛に包まれた日常はバディにとって完璧な世界だった。
しかし、1969年8月15日、プロテスタントの武装集団がカトリック住民への攻撃を始め、穏やかだったバディの世界は突如として悪夢へと変わってしまう。
住民すべてが顔なじみで、ひとつの家族のようだったベルファストは、この日を境に分断され、暴力と隣り合わせの日々の中で、バディと家族たちも故郷を離れるか否かの決断を迫られる。。。

冒頭、現在の発展したベルファストの街の風景が俯瞰で映し出されたたあと、映画は1969年に遡り、モノクロ映像に変わります。
9歳の少年である主人公のバディは監督であるケネス・ブラナーの幼い頃を投影したキャラで、モノクロということもあってか、見終わった今は、味わい深く、ほろ苦い名作だと個人的には感じています。
今作品を見ていて、とても印象に残ってる点が沢山あります。
まず、白黒に色をつけた映像が実に巧みで、スタルジックな雰囲気を醸し出し、数少ないカラーのシーンが際立っていました。
また、サウンドも実に巧み。
雨の音、火の音、テレビの音など、どのシーンに引き立てる効果音があったし、効果音のクオリティは驚くほど高く、今作品を見る際に新たな層を追加してくれてます。
加えて、演技が特に印象的で、特に若い才能のあるジュード・ヒルは、かなりのキラキラ星のようであり、ショーの主役を遜色せす演じています。また、母親としての強さと感情を見事に表現したケイトリオナ・バルフ(個人的に嵌まったドラマ『アウトランダー』のクレア・ビーチャム・ランダル・フレイザーとは、また違うが惹き込まれた)の才能も素晴らしい。
どのシーンも非常に親密で、カメラは常にアクションと家族に近づいており、観てる側は主人公をより身近に感じることができると思います。
ケネス・ブラナー監督自身の子供時代の実話を基にしたこの作品は、家族と労働者階級の苦悩を親密な視点で描き心に響きまくった。
ただ、老婆心ながら、冒涜的な表現、宗教に関する言及、攻撃性、小さな暴力があることに留意して観て欲しいです。
困難な人生の現実的な側面は、3世代家族の大きな温もりと愛、そして否定や不満をあまり感じさせない回復力と結束力によって構成されています。
人間の本質的な特性、真の愛、コミュニケーション、コミュニティが苦難を乗り越えていく実例と云える。
また、多くのシーンがこれを示しており、その積み重ねがある。
最後には、彼らの旅路を生き、理解し、感じ、そして共に歩んだような錯覚すら覚えました。
最初から最後まで、ブラナーは1996年の『ハムレット』(4時間以上)を凌駕し、しかもはるかに短い時間で文句なしの善き作品を生み出したと思います。
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