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ある男のmuraのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.0
他人の人生を追ううちに、その人生に取りこまれ、自分の人生が変わっていく…この展開に既視感を感じなくもないが…

離婚して宮崎の実家で暮らす里枝。実家の文房具屋店を手伝いながら子供を育てる。絵を描くことを趣味とし、その店に出入りする大祐。ひとり町にやって来て、林業に従事しながら暮らす。ふたりはしだいに距離を縮め、結婚。新たに子供も授かり、幸せな日々を過ごしていた。ところがあるとき倒木の下敷きになり、大祐は急逝。重枝は大祐の実家と連絡をとり、葬儀に兄を呼ぶが、遺影を見た兄は「大祐」ではないという。はたして「大祐」は誰なのか。重枝は離婚のときに世話になった弁護士の城戸に素性の解明を依頼する。

大裕は殺人犯の子として生まれ、その不遇な境遇から逃げ出したいと願う。一方で城戸は在日コリアンの子として生まれ、多少のコンプレックスを感じつつも、不遇とはいえない。しかししだいに、大祐の逃げ出したいという願いに心を寄せていく。「出生」への思いが交錯する。

謎解きでありつつ、その奥には現代社会への批判が込められる。とくに差別という問題。映画の随所に差別的な人間が登場し、差別的な言葉を放つ。極端にもみえるが、こういった人間は確かにいる。むしろ少なくない。平気で陰謀論を語り、自らの正義をもって他者を攻撃する。こういった人間が増えることを許している社会に抵抗したいという思いが映画ににじむ。これは悪くなかった。

とりわけキャスティングについては、妻夫木聡をはじめ、脂ののった役者を集めてきて、贅沢にも思えた。
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