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アステロイド・シティのolnのレビュー・感想・評価

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.1
【現実とフィクションは交錯する】
ジャンル:ウェス・アンダーソン

「経営者ほどフィクションを読むべきだ」という話を聞いた記憶があります。一般的な感覚からすると、「いやいや、現実を理解していないと、まともな商材なんか提供できないでしょう。」と感じるでしょうし、私もそう思いました。しかし、人間は夢を現実に変えて、歴史の上を歩いてきたのです。
たかだか100年前の人類からしたら、「電話線に縛られずに電話ができて、世界中の古今東西の知見にアクセスできて、音楽を聴けて、映画を観れて、金銭の支払いができる機能を搭載した手のひらサイズのデバイスが、一般に普及しています」とか言われても、「なにそれ、おいしいの?」状態になることでしょう。ところが、現代人からしたら、「スマホとか当たり前じゃん」としか思わないわけです。

本作は、そういったフィクションの世界と現実の世界を無造作に行き来し、いっそのことフィクションの方が現実であるかのような世界を描きます。そこには、当然のような顔をして舞台役者がいて、アメリカ西部を舞台にしていて、日常的に核実験をして、エイリアンが襲来して、情報操作する政府がいます。浮遊感さえ覚える詰め込みすぎな舞台設計も、思い返してみれば、多少の歪曲はあれど後世から見れば同時代にそこに存在していた事実・出来事なのです。(諸説ある情報も混じっていますが、都市伝説のカテゴライズに捩じ伏せましょう。)
かくも人間の営みとは、小説よりも奇なりな出来事の累積の上にあり、フィクションにしか見えないウェス・アンダーソンの世界よりも、更に斜め上を行く出来事が日々勃興している世の中で我々は生きているのだ、という概念を可視化したような作品でした。台詞のテンポが良すぎて、「さっき何て言ってたっけ?」状態になることもありましたが、これらの事柄でさえも、書き留める間もなく情報が右から左へ過ぎ去っていく昨今のご時世のメタファーのように感じます。そんな感慨に浸っている間に、有休を冠した今日が、睡眠と食事と映画のみを貪り、終わりを告げようとしています。

You can't wake up, if you don't fall asleep.



余談
本作の劇場公開中にチケットの予約まで済ませ、あとは観に行くだけ状態にしていたのですが、当日の体調が悪すぎて、人生で初めて予約した映画を意図的に放棄しました。
その後も、「ウェス・アンダーソン映画って、個人的に当たり外れ大きいからな〜、まぁいっか」で劇場スルーしてしまったのですが、マジで下手こいた。パンフ欲しい。と、2023年にも小さな後悔の念を残すことが決定しました。


余談その2
mignonさんから頂いた情報に乗っかって、中洲大洋で再鑑賞&パンフゲットできました。パンフかわいい。そして、エグいほどインタビューのボリュームが分厚い。
2回目の鑑賞が苦にならない内容と尺感って、とっても素敵やん。
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