いち麦

笑いのカイブツのいち麦のレビュー・感想・評価

笑いのカイブツ(2023年製作の映画)
4.0
笑えるコメディ作品ではなくてニューロダイバシティーのことを考えさせられた辛い作品。
好きなことなら一つのことに一人で何時間でも集中して取り組んでいくことができる。でも他人の気持ちや場の雰囲気を読むことは大の苦手。間違ったことや不公平・不公正なことが大嫌いなクセに、時には相手を深く傷つけることも平気で口にしてしまう…。
Opの苦しくなるほどの音響効果音には思わず耳を塞ぎたくなったが、これはツチヤのようなタイプの人たちがよく悩まされている知覚症状を主観的に表現した演出だろうと理解した。

大勢のひとをドッと笑わせる、というコミュニケーション能力が最大限必要な芸を支えるネタ作りを、お笑いの楽屋裏で重度のASD青年が必死になって取り組む。こんな地獄があるだろうか。ツチヤの苦しみが伝わってきて思わず涙が出た。彼は多分、元来、並外れた才能の持ち主だと思われるがそれを見せつけるような場面はほぼなく、あるのは文字通り寸暇を惜しんでひたすらネタ作りに取り組み続ける、血の滲むような努力をする姿だけ。そこから作品が生み出されていくストイックな描写にも心を奪われた。周囲に彼を理解してくれる人間が僅かではあるが現れ、潤いを与えてくれていたのが嬉しい。ただ、演出のためかツチヤの描写に引っかかる箇所もあったので、原作が読んでみたくなった。岡山天音の素晴らしい力演と、脇からの松本穂香、菅田将暉、仲野太賀の確かなサポート演技も見応え充分。
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