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ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野のYYamadaのレビュー・感想・評価

3.3
~超「勧善懲悪」の「新西部劇」~
【ネオ・ウェスタンのススメ】
『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール:
 報復の荒野』(2021)

◆本作の舞台
 テキサス州サリナス
◆連関する時代背景
 設定時代不詳

〈本作の粗筋〉 eiga.comより抜粋
・自分の縄張りを荒らす者には情け容赦なく銃を抜く荒くれ者のナット・ラヴは、20年前に両親を殺した憎き相手のルーファス・バックが間もなく釈放されることを知り、復讐を決意する。
・しかし、街に戻ったルーファスは「裏切り者」の異名で知られるトルーディス・スミスをはじめとした強者たちを引き連れていた。強大な敵に立ち向かうため、ナットはかつての仲間たちに声をかけ、ルーファス率いる悪党たちとの命を懸けた決闘に挑む…。

〈見処〉
①ヒップホップ×全員黒人俳優。
 ジェイ・Zプロデュースの新感覚⻄部劇
・『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール: 報復の荒野』は、2021年にウィル・スミス設立のオーバーブック・エンターテインメントが製作し、ラッパーのジェイ・Zがプロデューサーを務めた新感覚西部劇。Netflixにて2021年11月から配信。
・本作は「白人カウボーイや保安官による勧善懲悪ストーリー」という従来の西部劇の常識を逸脱、荒野の西部に生きる黒人カウボーイたちの復讐を軽快なラップのビートに乗せて描き、伝統的な西部劇と現代的な音楽を融合させた「黒人の黒人による万人に向けた」作品である。
・主人公ナットを演じるのは『ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ』(2019)にて注目の高まるジョナサン・メザース。宿敵ルーファス役には『マイティ・ソー』シリーズのイドリス・エルバ。そのほかレジーナ・キング、ザジー・ビーツ、ラキース・スタンフィールドらが共演。
・また、黒人俳優が数多くフィーチャーされている本作は、長く人種差別抗議に戦いながら、2020年8月に大腸癌でこの世を去ったチャドウィック・ボーズマンの功績を称え、作中登場の列車の車体に「C.A.BOSEMAN」と刻み、また配給のNETFLIXは、本作公開の2021年10月に「チャドウィック・A・ボーズマン記念奨学金の設立を発表。Black Lives Matter活動は、本作でも生き続けている。

②実在の人物たち
本作は、場所も時代も異なる西部開拓時代の「実在の人物」をモデルしたフィクション。彼らの略歴を認識をすると、より本作が楽しめる。
❶ナット・ラブ (1854-1921)
テネシーのプランテーション奴隷から産まれた、最も有名な黒人カウボーイ。各地を流浪した際にはビリー・ザ・キッドにも出会う。後年は作家として自伝を著し、67歳で永眠。
❷ルーファス・バック (1878?-1896)
10代の黒人とチェロキー・インディアン5人で構成された無法者集団ルーファス・バック・ギャングのリーダー。1895年にオクラホマで2週間にわたり犯罪を繰り返し、翌年なか絞首刑に処される。
❸チェロキー・ビル (1876-1896)
ルーファス・バック・ギャングの腹心。
ルーファス・バックとともに1896年に20歳で処刑されている。
❹バス・リーヴス (1838-1910)
解放奴隷から法執行官まで上り詰めた西部開拓時代の英雄。当初は農業に従事していたが、先住民の言葉に精通していたため重宝され保安官に抜擢。犯罪者の3,000人以上の逮捕を記録し、自衛のために14人を射殺する大手柄をあげている。
❺ジム・ベックワース (1798-1866)
作中で早撃ちガンマンと描かれていたが、史実では、白人農園の所有者と黒人奴隷の女性から産まれた混血児。探検家で毛皮業者、軍隊に参加したりと多岐にわたる活躍を見せた自由黒人。
❻ビル・ピケット (1870-1932)
アフリカ系黒人とネイティブアメリカンのチェロキー続々をルーツに持つ黒人ロデオパフォーマー。映画出演するほど有名になり、世界ツアーも経験。
❼メアリー・フィールズ (1832-1914)
奴隷制廃止まで30年以上奴隷として暮らし、52歳のときにモンタナに定住。60歳から配達人を始め、強盗をも撃退する強心臓にて「駅馬車メアリー」と呼ばれ、大成功を果たした。

③結び…本作の見処は?
◎: 要所を締める現代のブラック・ミュージックと西部劇は「いちご大福」並みに、なかなか相性が良い。音楽が洗練されると、イマドキ作品に見えるのが不思議。
○: 黒人だけの西部劇に違和感なし。元来、西部開拓時代のカウボーイの4人に1人が有色人種だったが、後世の創作作品により白人の専売特許な職業イメージと定着していたが、それらを打破している。
○: イタリア、デンマーク、ニュージーランドなど、近年の西部劇は製作費抑制の観点から本国以外の撮影作品が増えるなか、本作は米国ニューメキシコ州サンタフェ近郊を中心に撮影。アメリカならではのペインテッド・デザートの風景美が堪能出来る王道ウェスタン。
▲: 次期007候補と噂されるイドリス・エルバ。本作で披露するスキンヘッドは、セクシーさに欠け、残念ながらボビー・オロゴンにしか見えない。
×: 作品コンセプトは秀逸ながら、ストーリーと演出はベタで凡庸。本作で登場させた「実在の人物たち」も、そのキャリアをキャラクター反映出来ているとは思えず、名前だけを借りてきたに過ぎない。
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