ひゅうどんこ

めぐみのひゅうどんこのレビュー・感想・評価

めぐみ(2008年製作の映画)
4.5
(2022.7.12 文末に追加資料の添付あり)

 特定の組織による連れ去り事件は、被害者やその家族関係者の人生を奪ってしまうとともに人身売買や性奴隷、対象者が幼年者である場合は子供兵、児童婚、児童労働などの問題にもつながる、現在も世界の懸案事項である。


 北朝鮮は、日本を含む14の国と地域から他国民を連れ去ったとの指摘もあり、国連の調査委員会の公表によるとその数は20万人にも及ぶとされる。

特定失踪者を含む北朝鮮による日本人拉致問題は、そういった世界で問題となっている連れ去り事案の中でもかなり特異で悪質なものだ。

妙術と称した思考により、技術者や専門家を各々の産業に従事させたり、洗脳教育し対南工作に関わる活動に従事させることが、外国人を北朝鮮へ拉致する主な目的であるが、日本人についてはやや異なる。


◦工作員への日本語や日本の習慣を教える教育係とするため
◦日本人の国籍を利用し、国内外で工作活動をするため(成りすまし・背乗り)

以上2つの目的であったとされるが、韓国人拉致問題とも違うのは、日本というネームバリューを最大限悪用されたことだ。

韓国への工作員潜入が難しくなってきた時期を同じくする1960年代~70年代にかけて、日本は急速な発展を遂げ、国際社会における信用を得ていった。

日本の国籍を持ち、日本名を名乗り、日本語を話す日本人になりすまして工作活動することが次第に最良な策であると考えられるようになり、70年代後半当時日本海沿岸警備が手薄であったこと、朝鮮総聯や在日朝鮮人といった協力者に仕立てやすいネットワークが日本国内にあったことも禍いして、拉致事案が頻発してしまったのである。


 さて本作は、北朝鮮による日本人拉致問題が動き出すきっかけとなった少女拉致容疑事案、いわゆる横田めぐみさん拉致事件を描いた短編アニメーション作品である。

ここでこの事件関連の経緯をかいつまんで記しておく。
尚、敬称略とさせて頂くことをお許し願いたい。



1977年11月15日
 横田めぐみ拉致される。

1980年1月7日
 産経新聞社サンケイ新聞社会部記者 阿部雅美が「アベック3組謎の蒸発」との見出しで、マスメディアにて初めて北朝鮮の関与を示唆した拉致事件の報道をする。
 →政府、外務省からの反応無し、メディア他社もほぼ封殺。

1987年11月29日
 大韓航空機爆破事件発生。
1988年1月15日
 同事件の記者会見席上、実行犯の北朝鮮工作員・金賢姫が「日本人偽装の教育は北朝鮮に拉致された31歳の女性(李恩恵)から受けた」との発言。
1991年5月15日
 埼玉県警が李恩恵は田口八重子の可能性が高いと発表。

1988年3月26日
 国会参議院予算委員会において、日本共産党 橋本敦(質問主意書は秘書兵本達吉が作成)が質疑。
国家公安委員長梶山静六より「昭和五十三年以来の一連のアベック行方不明事案、恐らくは北朝鮮による拉致の疑いが十分濃厚でございます。」とのいわゆる梶山答弁を初めて引き出し、宇野宗佑外相、林田悠紀夫法相、城内康光警察庁警備局長からも同様の見解を得る。

1988年8月某日
 石岡亨、松木薫、有本恵子らの消息を伝える石岡本人の手紙がポーランド経由で石岡の家族の元に届く。
1988年9月某日
 有本恵子の両親が上京、衆議院議員会館に自由民主党幹事長の安倍晋太郎を訪問。安倍晋三を介して夫妻を外務省と警察庁に引き合わせる。

1996年
 現代コリア10月号に、朝日放送報道情報局プロデューサー石高健治が書いた「中学一年生の女の子が1970年代後半、北朝鮮に拉致されている 」という内容の論文が掲載される。
1996年12月中旬
 現代コリア研究所所長佐藤勝巳が新潟講演の折、新潟県警本部警備部外事課の課員らから上記論文の少女が横田めぐみであるとの情報をもたらされ、その旨を現代コリアに寄稿。
 →上記記事を読んだ大阪経済大学経済学部教授黒坂真が前述の国会議員秘書兵本達吉へ伝える一方、現代コリア研究所研究部長荒木和博が新進党衆議院議員西村眞悟に相談。

1997年1月21日
 兵本が横田夫妻に連絡、初めて両親が娘は北朝鮮に連れ去られていたことを知る。

1997年2月3日
 衆議院予算委員会、西村が初めて横田めぐみほか北朝鮮に拉致されている事案を実名で明確に指摘した質疑を行い、内閣総理大臣橋本龍太郎、外務大臣池田行彦に政府の見解を質す。
当委員会に先駆け、当日の朝刊数紙に
《20年前、中1少女を拉致 北朝鮮亡命工作員証言 新潟の失踪事件と酷似》
との実名と顔写真付きの見出しがおどり、幼気な少女まで北朝鮮に拐われたというインパクトに、ようやくメディア/世論/政府が動き出す。

2002年9月17日
 小泉純一郎首相訪朝、日朝首脳会談で、金正日国防委員長が、「特殊機関の一部が妄動主義・英雄主義に走った」とした上で、日本人を拉致した事実を認め、謝罪した。

2020年6月5日午後2時57分
 横田めぐみの父 横田滋、老衰のため死去。87歳。




 お嬢様との対面も叶わぬまま逝くことが何れ程無念であったことか。
めぐみさんが北朝鮮にいるということをお父上滋さんが知った時、既に定年退職された後だった。他の拉致被害者、特定失踪者のご両親もおしなべてご高齢なのは言わずもがな。
親となられている方々には、解決に向けた「時間が残されていない」ことの意味をお分かり頂けるのではないだろうか。


 2016年、某市立図書館にて本作DVDを初視聴。それから自分に出来ることは何かを考え続けてきた。
しかし私は忘れやすいたちである。これほど重要なことに関してもである。
幸い、Filmarksと出会ってまた思い出した。

調べれば調べるほど、この拉致問題は内にも外にも諸事情あり、解決への道筋は険しく悲観的にもなってしまうけれど、大事なことは、決して忘れ去りはしていないことを示すことであると思う。


 拉致問題についての映像作品は幾つかあるものの、無料でみることが出来て、複数のアクセスを選ぶことが出来、多くの人に受け入れ易いであろう内容と時間の作品が本作である。

作品リストにいつ登録されるのかと待っていたが、その気配も無かったので、今回映画作品として登録申請をさせて頂いた。

私一人の力は無に等しいけれど、万が一Filmarksがきっかけで本作を観て下さる方が出てきて、初めて拉致問題を知ったり、忘れていた拉致問題を思い出して問題意識を持つといった方がこの先少しでもいらっしゃるとしたら、本望であるし、そうなることを期待する。

 末筆ながら、Filmarks映画登録リクエストから12日目に作品登録されたことを確認致しました。申請をお聞き届け下さった運営各位に感謝申し上げます。


●アニメ「めぐみ」|政府インターネットテレビでみる
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg1754.html

●"北朝鮮による日本人拉致問題アニメ「めぐみ」(企画・制作:政府・拉致問題対策本部)" を YouTube で見る
https://youtu.be/g8gZVV80ADY (25:01)





─ ─ ─ 参考 ─ ─ ─

◎北朝鮮による日本人拉致事件については、一般的に「拉致」としているが、刑法学上は「拐取(所在国外移送目的拐取)」である。
拐取とは、騙して拐う誘拐と暴力や脅威を用いて拐う略取の総称。拉致は本来、略取のみに相当する。

◎本作声優陣はすべて無償出演である。

◎北朝鮮による拉致容疑事案について|警察庁Webサイト
https://www.npa.go.jp/bureau/security/abduct/index.html

◎拉致の可能性を排除できない事案に係る方々|警察庁Webサイト
https://www.npa.go.jp/bureau/security/abduct/list.html

◎これまで政府には約1,165万筆の署名が寄せられている(2016年11月末現在)。

◎毎年12月10日から16日までの1週間は「北朝鮮人権侵害問題啓発週間」として定められている。

◎関連団体
◦北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(通称:家族会)
◦北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(通称:救う会)
◦特定失踪者問題調査会(通称:調査会)※2003年 救う会から分離
◦北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟(通称:拉致議連)

◎北朝鮮向けラジオ放送「ふるさとの風」(「日本の風」)|政府の姿勢・取組|日本国政府:北朝鮮による日本人拉致問題
http://www.rachi.go.jp/jp/shisei/radio/index.html

◎『完全再現!北朝鮮拉致...25年目の真実 消えた大スクープの謎!!』(naka mikkyチャンネル様)
https://m.youtube.com/playlist?list=PLkMq7lnAMdGqmK2bMMEkAqYZ9C4Iyp8Kv

◎北朝鮮の国営通信・朝鮮中央通信は「特定失踪者」が日本国内での生存が確認されていることに言及し、「自国の社会悪が生じさせた問題を我々と無理に結び付け、躍起になって食い下がっている」との記事を2019年1月16日に配信している。
実際に2003年から2013年までの10年間で48人の所在が国内で確認されており、特定失踪者リストから政府の拉致認定を出しにくいのが現状である。
(認定には▲本人の意思に反して連れて行かれた▲北朝鮮に存在している▲北朝鮮の国家的意思があったなどの3要件が整ってなければいけない。)

◎拉致問題は、なぜ進まないのか | NHK政治マガジン
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/40601.html

◎日本人拉致問題、期待できなくなった米国の協力(2021年4月7日)|BIGLOBEニュース
https://news.biglobe.ne.jp/international/0407/jbp_210407_5773815722.html
 
◎拉致被害者 - 朝鮮語版Wikipedia
https://ko.wikipedia.org/wiki/%EB%82%A9%EB%B6%81%EC%9E%90

(2022.7.12 追加添付)
◎エガちゃんねる | "【時効だから話せる話】超危険地帯・北朝鮮編" を YouTube で見る
https://youtu.be/h6GcRWipcxA (20:49)
※3:00~6:45をご覧いただきたい。
事実とするならば、超弩級の証言である。