みーちゃん

ニトラム/NITRAMのみーちゃんのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
3.6
負傷した被害者や遺族がいるし、銃による無差別事件は今でも更新され続けているから、どんなトーンの映画なのか不安があったが、前者には最大限配慮しつつ、しっかりとメッセージが伝わる描き方だったと思う。

銃規制、コミュニティ、福祉などなど、複数の軸で考えさせられるが、私にとって一番身近なのは家族の問題なので、必然的に家庭のシーンに目が行った。

特にお母さん。彼女のMartinへの言葉は一度も彼の心にmeetしていなかった。少なくとも劇中では最初から最後まで、全ての場面において、全ての言葉が的を外してた(別方向の的に当たってた)。もはや嫌味と頑なさが日常語になっている。この描き方は、かなりセンシティブだと思う。

だけど私は、いつもなら用いる"毒親"というワードを簡単には使えない。その背景が5歳の時に迷子になったエピソードであり、冒頭の火傷のインタビュー映像だと思う。で、お父さん。優しくはあるけれどMartinとの向き合い方や、家族として果たした(果たさなかった)役割が、息子から理不尽に殴られ、それを妻に冷静に見物されるシーンに象徴されていると思う。あれは家族の地獄絵図だけど、均衡が崩れた時の心象風景かもしれない。

いずれにしても、両親が違ったとしても、ヘレンと出会わなかったとしても、心の通う友人が一人いたとしても、銃が買えなかったとしても、根本的な解決にはならない。なぜこの負のスパイラルが生まれたのか、皆が考えるべき事件だから映画にする意義があると思う。

※ヘレン役のエッシー・デイヴィスがとても良かった。