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ボーはおそれているのadeamのレビュー・感想・評価

ボーはおそれている(2023年製作の映画)
3.5
観客を不快にさせる天才アリ・アスターの長編3作目。
母怪死の報で帰省しようとする中年男が迷い込むカフカ的な不条理世界を描く物語です。
またしても親と子の居心地の悪い関係をテーマにしつつも、現実と妄想と記憶の境界を見分けようとする考察を阻害するように、意図的にロジカルな説明のつかない描写を入れるデヴィッド・リンチまがいの演出が好まれないのは分かる気もします。
しかし新世代のホラー作家という期待を逸らすように、羊水を離れて生きるままならない世界への恐れを社会風刺も交えたコメディとして描くスタンスはやっと自分の好きなものを撮れた喜びが感じられて良かったです。
読み解くよりも身を委ねる方が楽しい3時間で、正常な知覚を持たない視点を追体験するのはフォークナーの"響きと怒り"を読むのに似た体験でした。
毎度気絶で改行するよりボートから審判への展開のようなシームレスな移行の方がもっと仕組まれた悪夢感が出て良かった気がしますし、森での劇中劇はそれ自体のクオリティは素晴らしいながらテーマを説明しすぎで過剰でしたが、全体通して長尺でも飽きない満足感はありました。
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