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ジョージア、白い橋のカフェで逢いましょう/見上げた空に何が見える?のmasahitotenmaのレビュー・感想・評価

3.5
ジョージア(旧グルジア)の古都クタイシを舞台に、邪悪な呪いのせいで外見がすっかり変わってしまった男女の恋の行方をおとぎ話風に綴った不思議な物語。
監督はジョージア(旧グルジア)のアレクサンドレ・コベリゼ。
原題:(グルジア語) რას ვხედავთ როდესაც ცას ვუყურებთ? (Ras vkhedavt, rodesac cas vukurebt?)(意味:空を見上げると、何が見える?)
ベルリン国際映画祭国際映画批評家連盟賞受賞。
(2021、2時間31分)

~登場人物~
・ギオルギ
(変身前:ギオルギ・アンブロラゼ=後にアームレスリング・ヨーロッパ・チャンピオン
→変身後:ギオルギ・ボチョリシヴィリ=監督の幼なじみ)
・リザ
(変身前:オリコ・バルバカゼ
→変身後:アニ・カルセラゼ)
・リザの友達マイア
・木琴とピアノの音楽教師レラ
・カフェのオーナー(ヴァフタング・パンチュリゼ)
・映画監督、ニノ・チェリーゼ(=監督の母)
・カメラマン、イラクリ・スラクヴェリーゼ(デイビッド・コベルゼ=監督の父)
・写真家アナ・オデイカゼ
・のら犬(ヴァルディ他数匹)

【第一部】
"大ガラスを見たことがないのだとグイア・A は思った。その顔は無表情だった"
レゾ・チェイシヴィリ「グイア・A 」

ジョージア(旧グルジア)の美しき古都、クタイシ。
すれ違いざまに本を落とした薬剤師のリザとそれを拾ったサッカー選手のギオルギ。ほんの数秒言葉を交わしただけの2人は、夜の道で再会。名前も連絡先も訊かないまま、翌日白い橋のそばにあるカフェで会う約束をする。
ところが、邪悪な目の呪いで、翌朝2人が目覚めると、外見がまったく変わっていた。
リザとギオルギは約束したカフェで待つが、相手は現れない。
さらに、2人はそれぞれ最も大切な知識や才能(リザは薬の知識、ギオルギはサッカーの才能)を失なう。
仕事を失なったリザはカフェでアイスクリーム担当の販売員に就き、ギオルギはカフェの経営者から白い橋で鉄棒(ぶら下がり棒)の仕事を任される。
リザとキオルギは、毎日相手を見かけているのだが、分からないまま互いを待ち続ける。

時はたち、町に映画監督とカメラマンと写真家がやってくる。
写真家は映画の最後に登場する6組の恋人候補として、恋人50組を探す…。

・4体の"仲間"(木、監視カメラ、雨樋、風)
・釣糸と紙幣
・迫るワールドカップ
・メッシ
・サッカーの観戦場所2ヵ所(赤い橋にあるビールバー、メリセシヴィリ劇場の裏)
・プロジェクター
・少年と少女たちのサッカー遊び
・リオニ川とサッカー・ボール

「最初の信号音で○を閉じてください。
2回目の信号音で○を開けてください…」

「邪悪な目の持ち主は、この呪いによってリザとギオルギが互いを見失い永遠に苦しむことを望んだ」

「恋に落ちるとは心配することだ」

「コーヒーかカードどっちを使う?」

【第二部】
"クタイシの市場で見かけたジョコンダはハーブを売っていた"
レヴァン・チェリゼ 「忘れられた物語」

・イメレティ地方の祖父母から教わったレシピ「ハチャプリ」
・一生懸命サッカー練習に励む女の子
・下校中の子どもたち(木の後ろ)
・アイスクリームと1時間
・警察→クッキーの早食い
・彫刻
・妻の誕生日のケーキとスフヴィトリ村
・アルゼンチンの決勝戦<家まで○○
・背中にペンキ(M…)
・黄色い花の樹木(名前は?)
・映写会

「私たちが見ているこの出来事が起こった時代について少し話すのも悪くないだろう。
残虐で冷酷な時代だった。最も残酷な時代として将来思い起こされるだろう。
非情な犯罪が行われるなか人々がどう暮らしたか想像するのは難しいものだ。
同様に世界に対する私たちの無関心を未来の人は理解できない。
…私たちは時代の空気にならい世界については何も語らず物語を進めよう」

「フヴァムリ山(※)には?
いいえ、あなたは?
まだですが、いつか登ろうかと。
…この残虐性と無力感の理由をいつか問われる。こんな時代に私は何をしていたのかと」
(※)プロメテウスが繋がれた山

「避けたかったはずの行為を人は時折やってしまう」

「改めて考えるとこの物語にはおかしな部分が多い。…分からないことばかり。
しかし最も不思議で驚くべきなのは、この種の物語が描かれ続けることだ。
なぜなのかは分からない。
まず、少しも社会の役に立たない。そして、やはり何の役にもたたない。
それでもおかしなことはあちこちに存在している。
たぶん、もっと…。
どこにいても想定外の事件は起きる。でも、じっくり考えればそこに何かが見つかる。
誰が言おうとこんな事件は起こる。まれだけど本当に」

背後に流れるナレーションとわずかなセリフだけで、呪いにかけられた若い男女の物語がゆったりと展開する。
並行して、子どもたちや若者などクタイシの町の人たちの日常が、町の風景とともにセミ・ドキュメンタリー風に写し出されている。
会話を消すサイレント技法、脚など人間の身体の一部分だけのクローズアップ、(サッカーしている少年少女の生き生きとした動きと表情を捉えた)ストップ・モーションなど、カメラワークを駆使して美しい映像を作り出している。
なお、この映画はおとぎ話風に始まりますが、映像で見せる美しい世界の裏に何か暗い陰を感じさせます。
さて、映画を見上げると、何が見える?

(グルジア→ジョージアについて)
ソビエト連邦の崩壊に伴い1991年4月にグルジア共和国として独立を回復。
2008年ロシアが軍事侵攻し、北部の南オセチアとアブハジアの「独立」を一方的に承認。
ロシアと国交断絶し、日本は要請を受け、2015年4月までのロシア語読みの国名グルジア(рузия, Gruziya)からジョージアへ変更。
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