滝和也

邪魔者は殺せの滝和也のレビュー・感想・評価

邪魔者は殺せ(1947年製作の映画)
3.9
独立の闘士と
市井の人々…
人を殺した殺人犯と
一般人…
立ちすくむ重症者と
街ゆく人々…

悲しみの夜の中、
孤独の闇を描くノワール

「邪魔者は殺せ」

第三の男を監督した名匠キャロル・リードがそれ以前に描いたフィルム・ノワールの佳作。モノクローム撮影の極地であった第三の男を想起させる映像美とテロリストの孤独を幾重にも描き出した悲劇。重症のテロリストを狂言回しにした人間の心の真実を描く作品とも言えますね。

アイルランド独立機構の一員であり、街のリーダージョニー。半年前に脱獄し街に戻り匿われていた彼は本部命令から、資金稼ぎのため工場を襲う。だが久々の外に立ちくらみを起こした彼は警備員と格闘になり、肩に傷を負ってしまう。車に飛びついたものの滑り落ちた彼は一人で街に隠れざる得なくなり…。

重症を負ってまるでモノの様に人々にたらい回される主人公ジョニー。仲間は早々に警察に囚われ、希望は彼女であるキャスリーンのみと言う絶望的状況。本来英国からの独立で支持されているはずのジョニーだが…殺人犯として重症者として面倒に巻き込まれたくない人々により、孤立し捨てられ…とキリスト教圏下とは思えぬ酷い仕打ちに合う…。

そのシチュエーションも夜の雨から雪へとなり、その冷たさ、寒さが人々の冷酷さと合せて襲ってくる…。そして前半部分は特に光と影の演出が素晴らしい。闇の中に光が漏れ、影が街に映し出される。テロ=罪人となったジョニー達の悲劇を浮き出させる。

またこの闇の中に夜半までは必ず子供達がいて…、シルエットにもなっている。時に犯罪者を英雄化してみたり、無垢であるゆえに悲劇を照らす鏡のように残酷にも見える。確かにリード監督は別作品でも子供達を使う演出を入れてきますからね。

後半、やや気をてらい過ぎた人物(絵描きや鳥屋)が目立ちすぎる為、テンションが落ちてくるのが難であり、キャスリーンとの昼ドラ的な展開がややもすると嫌われてしまうのかなと思いますが…。 

私はその昼ドラ的な流れも嫌いじゃなくて、ラストシーンはカソリックのアイルランド人としてはそうするしかない展開ですからね。政治的な部分も感じますが、良いラストだと思いますね。ハリウッド作品ではまだこの様な生々しい作品はヘイズコードから無理な時代かなと…。この後の第三の男でその力のすべてが開放されますし、その根幹部分の地力を感じさせる佳作だと思いますね。
滝和也

滝和也