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Mr.ノーバディのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

Mr.ノーバディ(2021年製作の映画)
4.5

#Mrノーバディ
何者でもない平凡なオッサンが実はやべー奴だった、ジョンウィック的アクション映画。個人的2021年のベスト10候補。

好みは多少あるかもしれないですが、ブチギレの理由/殴り殴られる武骨なアクション/中盤以降の超展開、個人的にはすべてが最高でした。

イオンシネマ板橋で公開2週目に観賞。
それほどの話題作でもないし、まだ緊急事態宣言明け直後くらいだったけれど、2週目なのにけっこう客席埋まっていたのが印象的。



■火曜日はゴミの日
オープニング、主人公ハッチがいかに平凡でつまらない男なのかが超高速の心地よいテンポで描写される。
アクションが最高な本作ではあるけれど、個人的にはここが本作のベストシーン。開始5分が最高な映画にハズレなし。


■予告編
犬を殺されたなら生かしてはおけない。
『ジョン・ウィック』(2014)はこのシンプルな設定で主人公に全観客の共感を集めた。実に単純かつ見事な設定だ。

同作で共同監督を務めたデヴィッド・リーチがプロデューサーを務めた『Mrノーバディ』、予告編で主人公ハッチが叫ぶ印象的なセリフ

「猫ちゃんのブレスを返せ!」

娘の大事な猫ちゃんブレスを粗末に扱う野郎は生かしてはおけない。
いやあ実に秀逸な予告編です。本作は必ず予告編を見てから本編を観るべき。


<以下、ネタバレあり感想>




■猫ちゃんのブレスを返せ!
主人公ハッチを演じたボブ・オデンカーク
本作を観た後に『ストーリーオブマイライフ/わたしの若草物語』にも出演してたと知った。
「ウソでしょ?絶対出てなかったよ」と思って観返してみたら、四姉妹の父親役でたしかに出ていた。

いや存在感なさすぎてまったく記憶になかったわ。
そういう意味ではハッチ役としては秀逸なキャスティングである。

火曜のゴミの日にいつもゴミを出しそびれる凡庸な男ハッチ。
そんな彼の家に泥棒が侵入する。全観客が期待するハッチ無双...は起こらない。

なぜ反撃しない?なぜ家族を守らない?息子に指摘される情けない父親。
「猫ちゃんのブレスがなくなってる」悲しむ娘。

そして泥棒の家に乗り込むハッチ。「猫ちゃんのブレスを返せ!」
しかし、猫ちゃんブレスは盗まれていなかった。殺す価値もないしょっぱい泥棒男女。

このやりきれない怒り...どこにぶつければ。
そして一見平凡な男がついにブチギレた理由は「暴力をふるいたいから」だった。

バス内でボコボコにされるチンピラたち。喉にアレを突き刺す仕打ちがエグい。
帰宅後、ソファの下から発見される猫ちゃんブレス。

「いやおかしいでしょ。猫ちゃんブレスレットは覚醒に関係ねえのかよ!」
予告編がフリになっている秀逸なプロモーションだ。


いやチンピラ被害者じゃね?ハッチ極悪人のやべー奴じゃね?
この理不尽さを笑って受け入れられるか、はたまたハッチに嫌悪感を抱くかが、本作を楽しめるかどうかの分水嶺だと思う。

個人的にはコレ最高だなって思いました。ジョンウィックとセットで観るとより楽しい。
もう動機がめちゃくちゃなのが、彼のヤベー奴感を増幅させていて斬新だった。


■重厚アクション
バリエーションに富んでいて華麗なジョンウィックに対し、ハッチのアクションは重厚。
カンフー/ワンフーのように踊るようなアクションはなく、殴り殴られ血を流し流されの格闘は見応えがある。

主人公が無敵の超人ではないからこそ生まれる重みのあるアクションシーン、
そして、観客が飽きてくる前に終盤の超展開に移行する持っていき方もお見事。

92分というコンパクトな尺で、余計なドラマを描くこともなく一気に見れる良作。


■その他キャラクター

◆ユリアン・クズネツォフ
ラスボスとなるロシアンマフィア。このキャラはかなりポテンシャルの高いキャラだったと思う。

行き交う車など見えていないかのように踊りながら車道を横切りクラブへ入っていくワンカットのシーンが秀逸。
世界は俺様を中心に動いている、という彼のキャラクターを映像だけで説明する最高の登場シーン。

近年の映画で、これほどワクワク感のある悪役は記憶になく、彼は名悪役として光輝けるポテンシャルがあったと思う。
けれども終盤はたいした見せ場もなく主人公に喰われた感あり残念だった。

冷静に考えてみると、マフィアだから悪人ではあるんだろうけど、本作の物語に関してだけでいえば彼は何から何まで完全に被害者でしかないのも笑う。
無残な死に方するの理不尽すぎて。

◆ハッチの父(クリストファー・ロイド)
我らがドクことクリストファー・ロイドが退役したハッチの父を好演。

マフィアとの最終決戦を前に唐突に登場した車椅子のキャラクター
...もやべー奴だった!になる隠しショットガン。

このシーンで劇場内から拍手もチラホラ起こっていて最高だった。
自分も思わず声あげて笑ってしまった。

◆ハッチの義弟
このキャラは登場も唐突すぎるし設定もよくわからなくて、なんのためにいるのかよくわからなかった。
とはいえ最終決戦が父子バディよりもいきなり団体戦化するほうがハチャメチャ感が出て面白いっていう判断なのかな。

◆ハッチの家族
家もあんなことになって、彼らは今後どうするのか気になるようなどうでもいいような。


【スコア】
★4.5で。

余計なストーリーの描き込みはすっ飛ばして、やりたいことだけに絞った映画は見やすくてよい。

エンディングでオープニングシーンに戻ってくる演出があるけれど、
「猫好きには悪い奴はいない(確信)」で始まり、
「いや、優雅に猫なでてる場合じゃねえからな!お前普通に極悪人だからな!」とツッコまずにはいられないラストで終わるのが面白い。
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