スプリングス

キャラクターのスプリングスのネタバレレビュー・内容・結末

キャラクター(2021年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

〈/キャラクターをつくるということ/〉

【Introduction】
キャラクターというのは一人の“人間”です。
キャラクターは、物語の中に存在し、物語の中で考え、物語の中で行動します。読み手はそれを読んで、観て、頭の中にキャラクター像を作り上げます。
現実の人間も同じです。その人を見て、話を聞いて、どんな人間かを知ります。頭の中には“その人のイメージ”が作られます。このイメージは現実の“その人”とは切り離された存在です。これが頭の中のもう一人の“その人”。言うなれば“その人のキャラクター像”です。
現実の人間も、物語のキャラクターも、頭の中においては得られた情報で作られたイメージである事には変わりはありません。人の頭の中では、現実の人間とキャラに本質的な違いはないのです。
大事なのは、キャラクターを一人の人間として考えることです。そしてそのキャラクターを作るにあたって重要な要素が、どういう人生を歩んできたのかを考えることです。
バックボーンが疎かになるとキャラクター像がブレやすくなり、ストーリーにおいても矛盾が発生する危険があるのです。どんな人間にも過去があり、その過去がキャラクターをかたち作ります。物語においても、現実においても。
キャラクターをつくるということは、ひとりの人間をこの世に生み出すことと同義なのです。


【Review】
かなり興味深い作品でした。
『キャラクター』というストレートなタイトルに惹かれて鑑賞しましたが、これはなかなかよくできたタイトルだったなと観賞後に思わされます。似た言葉はいくつか思い浮かびはしますが、この物語のタイトルは『キャラクター』という言葉でなくちゃいけない。でないと主役2人に等しく寄り添うことができない。タイトルの部分で、もう大成功です。

演者陣は実力者揃いでしたが、その中でもセカオワのFukaseさんの演技がマジで好きです。
彼が演じるキャラクターの不安定さが絶妙で、今後も演者として活躍してほしいなぁと思わされます。
彼が暮らす部屋のデザインもすごく良いです。
戸籍も名前も与えられなかった男が自分自身を肯定する為に作り上げたポートフォリオ的な一室。自分は誰だという自問自答の果ての答え。それがあの部屋から感じられます。

好きなシーンですが、タイトルイン辺りの一人称視点がマジで殺人現場を目撃した衝撃とかが感じられて良い演出でよきでした。音楽もカッケェしね。
美術面でいうと漫画のビジュアルがほんまに面白そうな絵柄でよかったです。描かれたのは江野スミさんという方らしいですね。実際の漫画家さんらしいのでこの方の漫画も読んでみたいところです。


キャラクターを生み出せない男と。
キャラクターを与えられなかった男と。
両者の生み出してしまった物語と。
...振り返ってみると、かなり興味深い内容の作品であると改めて思いますね。
物語が彼を完成させてしまった。
そして彼のキャラクター像は、他のキャラクターをも染めてしまう。
後味の悪い話ですが、清田というキャラクターがその中で希望となっているのがすごくいい。

清田を主人公にしてダガーを打ち負かす新連載、山城先生には期待しております。


【Digression】
セカオワの楽曲は『Death Disco』が一番好きです。