MasaichiYaguchi

ハイゼ家 百年のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

ハイゼ家 百年(2019年製作の映画)
3.8
旧東ドイツ出身の映画作家トーマス・ハイゼが、モノトーンの映像に被せて自身の家族史を語る3時間38分のドキュメンタリーからは、2度の大戦、ナチスの台頭、それによるホロコースト、冷戦による東西分裂、秘密警察シュタージによる支配、ベルリンの壁崩壊、そして未だに続く国家による暴力で虐げられる人々と、激動のドイツ100年史が浮き彫りにされていく。
監督のモノローグと共に、ハイゼ家が19世紀後半から保管してきた日記、手紙、写真、音声記録等の遺品や、現在の東ドイツの風景が映し出される。
ハイゼ家は祖父が博士で教師、祖母が彫刻家、父が教授で哲学者、母がドイツ文学者というアカデミックな人々ばかり、本作の監督でナレーターを務めるトーマス・ハイゼもドキュメンタリー監督のほか作家であり詩人、そして現在はベルリン芸術アカデミーの教授でもある。
それにしても全5章で描かれるドイツの100年間の変遷は激動という言葉では生温く感じるほどに苛烈だ。
ベルリンの壁崩壊から30年、壁も監督が生まれ育った故郷も今はない。
社会主義共同体を信じたドキュメンタリーに登場する人々は、壁崩壊後も変わらない国家の暴力と支配に失望している。
だからこそ、在りし日の家族の肖像と故郷を語ることによってもたらされるもので監督は我々に問い掛けているような気がする。