阪本嘉一好子

Andrés lee i escribe(原題)の阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

Andrés lee i escribe(原題)(2016年製作の映画)
5.0
人間の共通点が描かれている映画であり、土地勘や政治的問題を知らなくてもよく、世界共通の問題に焦点を置いているから、アンドレーの行動に疑問をかんじながらもスーッと入っていける映画だと思う。

人間って何かの時に目覚めるんだな。毎日無駄に過ごしていないんだなと思える映画。

アンドレーAndres Centeno  (Fernando Mena) は30歳前半の若者で、工場で夜勤している。朝家に戻って寝ているが、体の調子がイマイチで、医者にいくがインターンが担当医になったせいか、アドバイスが気に入らないせいか、セカンド、サードオピニオンを聞きに何度か偽名を使って通う。パニック症候群?喘息?ネットで症状から病状を調べている。自分の人生に興味をなくして、いや、何もする気がないのか、何をしてもダメだと思っているのか、、、気迫のない生活を送っている。夜の仕事は大変ではなさそうだが、明るい昼間はカーテンを閉めても眠れない日が続く。本当に病気なのか?人生の意義を見出せないのか?女性にも情熱的になるわけでもない。

こんな人はたくさんいると思う。こんな人がたくさんいるって知ってるから、こんな人にいい映画だし、私にとっても考えさせられる映画。


ある日、職場の友達の車を借りて、一人暮らしの母親に会いに行く。そのとき、母親が彼の八十年代頃の荷物に風を通していることがわかった。彼は郷愁にかられそれを持ち帰った。荷物の中は、ETなどのdvdやノートが出てきた。それらを一つ一つ読み返したり、きれいにし始めた。それらには思い出があり、自分は前はスクラップブックを作って芸術的なものに興味があったのだと。しかし、今付き合っているガールフレンドは彼の心境にお構いなしで、外出して飲みに行ったりすることを強要する。彼は行かなくて、一人で自分の過去を見つめているとき、医者のインターンのドミンガDominga(María Gracia Andrea Omegna Vergara) から電話をもらう。彼女と外で会い、ビールを飲みながら話していて、自分を再発見する。自分のしたかったことを彼女との会話によって、目覚めさせられる。彼女との会話のシーンは圧巻だ。

A:家族がサポートしてくれればなんでもできる。
D:怒ってるのそれとも自分の哲学を言っているの。
A:両方かも。吐けば、少しはましになる。
D:初めてだね、あなたが、情熱的に話したのは。私はあなたの受け身の顔しか知らない。


Domingaの方は親から医者になるよう言われた。でも、自分のやりたいことは他にある。二人のバックグラウンドは違うが、お互いに、理解しあえる。

そして、彼の生活もアクティブになっていく。自分の道を見つけたように。

Fernando MenaもMaría Gracia Andrea Omegna Vergaraもチリの俳優だが、静かで、自分の気持ちを落ち着いて話せる人たちだから心に残る。いい俳優だ。
自分の気持ちをそのまま見せて人と向き合うことは無意味なことはない。なにかのきっと発見があるし、学べる。


蛇足:
どこが舞台かまったく分からなかった。スペイン語はわかったが、発音が聴き慣れないスペイン語だった。見ているうちに、アンドレ〜が職場の友達と車で出掛けた。その時、友達がここが一番好きなところ、サンチアゴの町が美しく見えるからと。それで、チリなんだとわかった。

この映画は今年のベストかもしれない。https://cinechile.cl/pelicula/andres-lee-i-escribe/