NAOKI

激怒のNAOKIのレビュー・感想・評価

激怒(2022年製作の映画)
3.6
もう随分前の話ですが…

ライムスター宇多丸氏のラジオ(まだシネマハスラーだった頃)を聴いているとゲストに高橋ヨシキ氏が出てました。
そして色々映画駄話を繰り広げる中「タクシードライバー」の話になったんです。

「タクシードライバー」といえば、おれにとっては中2でこの映画に出会いその衝撃で映画ファンという因果な道を歩み出すきっかけになったくらいの映画!
もう何回観たかわからないくらい。

デ・ニーロ演じるトラヴィスがタクシー会社の面接を受けるシーン…
トラヴィスが海兵隊としてベトナムに従軍したことを言うと「おれも海兵隊だ」と面接オヤジがガラリと態度を変える…

「これ…嘘ですよね」
高橋ヨシキ氏がサラッと言った。

おれは思わず「あ!」っと声をあげてしまった。
ちょっと考えれば分かることでおれ自身も心のどこかに引っ掛かっていたはずなのに…トラヴィスはベトナムで心を病んでしまったのだ…と勝手に思い込んでいたのである。

もちろん嘘だという証拠はないのだけど、トラヴィスは他の場面でも「政府の仕事をしている」とか「家のステレオが壊れていて聴いてない」(彼女にクリス・クリストファーソンのレコードをプレゼントした時)とかすぐウソをつくやつなのだ。
確かにもし海兵隊あがりのプロならマグナム・フォースみたいな非実用的な銃を選ぶはずはないし、腕にレール付けて飛び出すピストルなんて完全にオタクの発想である。(クライマックスで見事に機能するけども笑)

この事一発で高橋ヨシキ氏はおれの中で最も信頼できる映画評論家になったのでした。
おれはなんてボンヤリ映画を観ているのだろうと猛省したのでした。

高橋ヨシキ氏は真っ赤なドレッドヘアーに両腕にびっしりタトゥーが見えるかなりイカつい容姿なのですが、そのタトゥーは全部映画関連のタトゥーであるという…もうリスペクトしかありません。

中でも「マッドマックス怒りのデス・ロード」のウォー・ボーイズの焼印(シャーリーズ・セロンがうなじに押してたやつね)を入れたらしくジョージ・ミラー監督のインタヴューの際にそれを見せたら監督はいたく感激して「ウォーボーイズのタトゥーを入れたクレイジーな日本人に会った!」と彼の著作に登場したそうです。

MMFRを2010年台の映画ベストワンとするおれにとって高橋ヨシキ氏は日本一の映画評論家となり、彼のYouTube「クレイジーカルチャーTV」や「ブラックホール」を見ることは今やおれの日常になっている感じです。

そんな高橋ヨシキ氏が初めてメガホンをとった「激怒」
最初知った時は驚きました。

要はアレ…「じゃあお前が撮れば」問題…

映画評論家は的確に映画を分析しおれたちに映画の楽しみ方を教えてくれます。でも時にそれは上から目線で映画をこき下ろすことにもなってしまうのです。

そんな時、映画ファンから「そんなに映画のこと分かるんだったら自分で撮れば?」と言われるわけです。
なぜ映画評論家は自分で映画を撮らないのか?

実際批評家が映画を撮る例はほとんど見たことないですね…もし撮ってもプロの映画監督より上手いなんてありえないでしょうから…

撮ったら何言われるかわかったもんじゃないしね(笑)水野晴郎さんは偉かったね。(シベリア超特急を5本くらい撮った?無茶苦茶言われてたけどね)

まぁ高橋ヨシキ氏はアートディレクターであり脚本家(冷たい熱帯魚)でもあるので映画を撮っても全然不思議ではないのですが(不穏な町を表す不思議な色合いは素晴らしかった)監督にチャレンジしたという勇気は賞賛に値します。
しかも観た人は分かると思うのですがウェルメイドなちょっと気取った映画を撮ってもいいのにコテコテのジャンル映画(笑)

もし誰が作ったか知らずに観たらちょっと突っ込んでしまいたくなるレベルの荒削りの低予算映画だと思うかもしれません。
「あの」高橋ヨシキ氏が作った!と思って観るとニヤニヤしてしまう面白い映画でした。彼が日常どういうことに「激怒」しているのか知ってるからこそ面白い。

狭い道でまったく車が来ていないのに律儀に信号待ちしてる町内会の人々…そこを平気で信号無視していく刑事…このオープニングからニヤニヤ(笑)

映画の中の暴力やエロだけではなくタバコやシートベルトにまで目くじら立てる昨今の風潮、それに反比例して過激になるネットの中の言葉の暴力…

「やっちまえ〜」

ゴアでスプラッタなクラマックスを期待したのですがやや不完全燃焼…部屋の中に敵が順番に入ってきて闘うクライマックスにはもう少し予算があればと悔しい感じ(笑)

主人公が初めから暴力刑事でアメリカの治療で怒りを抑えられるようになったが…というストーリーは面白いけど…
主役の川瀬陽太さんが黙っていると優しくソフトな感じなので最初は表に怒りを出すことができない優しすぎるキャラクターの方が良かったんじゃないか?と思いました。
我慢して我慢して最後にブチ切れて「お前らみんなぶっ殺す!」ってなった方がカタルシス半端なかったんじゃないか?と思っちゃいました。
そうすればとぼけたラストもより生きたのでは?

じゃあお前が撮ってみれば?

すいませんすいません…

高橋ヨシキ様一生ついて行きます(笑)
NAOKI

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