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ザ・フラッシュのsanbonのレビュー・感想・評価

ザ・フラッシュ(2023年製作の映画)
3.9
「DC」の終わりで始まり。

今作を以て「マン・オブ・スティール」から始まった「ザック・スナイダー」バースとも言うべき「DCEU」が終わりを迎え「ジェームズ・ガン」が手綱を握る新たなユニバースがまたもや「スーパーマン」を皮切りに始まるという事なのだが、今までの総括をしてしまうとなんとも世知辛い幕切れとしか言いようがない。

それこそ、最後の最後でようやくDCEUの理想形に到達したところでの、この度の終焉である。

今後「フラッシュ」の映画が作られる事になっても、それは「エズラ・ミラー」が演じる続編じゃない可能性が高いし「アクアマン」や「ワンダーウーマン」など単体での人気は高いキャラクターも、結局のところはこの転換期で見納めになるのかもしれない。

ワンダーウーマンなんて、無意味に色んな作品に客演しまくってたのに、このままじゃチョイ役お姉さんの印象で終わってしまいそう。

年数だけは結構長い事やってたから、愛着自体は湧いていたキャスト勢も、結果的には積み重ねた努力が水泡に帰する形となってしまったのだから、これを世知辛いと言わずしてなんと言えばいいのか。

「サイボーグ」なんかは「ジャスティス・リーグ」中唯一、単独作すら作られず終いだったし。

とにかく、ユニバース最終作に銘打たれたこの作品が中々の出来栄えであった事が、逆に飛ぶ鳥跡を濁しまくりとなってしまった感のある今作。

どうせなら「X-MEN」みたいに最後まで微妙を貫いてくれれば良かったのにと、鑑賞後はもったいない気持ちでいっぱいになってしまった。

まず、冒頭の展開は本当によく練られたプロットだと思う。

タイトル出しのところでボケを入れ込む事によって、作品の打ち出したいカラーを瞬時に理解させる演出や、能力の特性を赤ん坊の救出劇で全て説明する無駄の無さには感心させられたし、なによりあの冒頭があったからこそ、この物語に没入出来たと言っても過言ではない。

それこそ、スピードが速いキャラクターというのは、VFXが発達して以来度々登場しては、その演出法に関してはあらかた出尽くしているものだと思っていたが、今作ではそこに"科学的考証"を加えてまた違った魅力を引き出していたのには、正直凄いなと感じるところであった。

確かに、言われてみれば人の何千倍も速く動いているのだから、ハイカロリーなエネルギー補給は常に必要だし、速く動けるのはあくまで自分だけなのだから、自分のスピードに他人を巻き添えにしてしまうとその人の体調に影響を及ぼしてしまうから、直接的な接触が出来ないんだというのを、冒頭のシークエンスの中だけで全て違和感なく提示していたのは、なるほどなと感嘆ものだった。

あとは、ハイテクなのかローテクなのか、コスチュームチェンジの方法も意外性というかなんというか、ところどころ挟まる予想を裏切るスカシのボケなんかも日本人の感性にも合っていたし、細かいところに目を向けてしまうともちろんツッコミを入れたくなる部分はいくらかありはすれど、総合的には優秀と言っていいクオリティだった。

ただ、それでもフラッシュ単体で一本映画を作るのには、やはり心許なかったかという感じ。

何故なら、今作の魅力の半分は「バットマン」が握っていたからだ。

しかも、予告映像でも大々的に「マイケル・キートン」版のバットマンが広告塔の役目を担っている。

今作には「ベン・アフレック」版のバットマンも登場するのだから、このサプライズを隠し通して公開する事だって当然出来た筈なのに、それをする勇気は無かったのだろう。

でも、考えれば考える程今作のモチベーションは、このマイケルバットマンが大半を担っているのだから、絶対にネタバラシはしちゃいけないような気がしてならない。

広告の打ち方も、絶対にそっちの方が話題性は高められたと思うのだ。

それこそ「最高傑作」なんていう、ハードル爆上がりの諸刃の剣なんて使わずとも、その分だけ評価は後から着いてきた筈だ。

事実、その謳い文句の分だけ評価はやや下振れた感はあるので、前評判に関しては、間違いなく上げすぎである。

「ニコラス・ケイジ」や「ジョージ・クルーニー」のカメオなんか用意するくらいなら、出来れば映画館でマイケルの出演は知りたかったかな。

それに加え、興収的にも期待に反して大爆死クラスらしいので、新生してもブランド自体がもはや死に体なのかもしれない。

あと、トマト缶をどうするかより先に、犯人をどうにかした方が良かったんじゃないか?

結末は変えられないという結論に至ったような話ではあったが「ゾッド将軍」と違ってそっちの制圧は容易いのではないのか。
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