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水俣曼荼羅のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

水俣曼荼羅(2020年製作の映画)
3.7
【面従腹背の「お察し申し上げます」】
第21回東京フィルメックスにて上映された原一男最新作『水俣曼荼羅』が2021年11月27日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開される。3部構成上映時間372分の力作である本作を風狂映画舎さんのご好意で一足先に拝見しました。

先日、日本ではジョニー・デップ主演の『MINAMATA-ミナマタ-』が公開された。また、その公開に合わせてユーロスペースでは土本典昭監督の『水俣 - 患者さんとその世界』、『水俣一揆 - 一生を問う人々』が上映された。本作は、2008年に亡くなった水俣病ドキュメンタリー監督・土本典昭の跡を継ぎ、半世紀以上経っても終わることなき戦いを記録し我々に提示している。

原一男監督といえば、『ゆきゆきて、神軍』における戦略的な被写体へのインタビューや『さようならCP』における人々が目を背けてしまうような存在に対して斬り込んでいくスタイルを思い浮かべるが70歳を超えた彼の鋭い演出は衰え知らずである。

特に注目すべきは第一部である。小池百合子と水俣病の被害者が議論をする。その様子を2画面で描いているのだが、左右の画面とも視線が左方向を向いており、視線が交わっていないように見える。ドキュメンタリー映画とは、事実を編集し真実を導く存在である。その特性故に、どんなに正確に捉えていてもそこには主観や時には他者から見た時の嘘が入り込んでしまう。監督は、ドキュメンタリー映画に入り込む嘘を逆手にとり、敢えて視線が交わっていない議論を観客に提示する。

これは、チッソ株式会社や県、国が謝罪しているようで、被害者に向き合っておらず、ひたすら面従腹背していることを強調している。土本典昭が亡くなって10年以上経っても終わらぬ水俣病問題における本質をこの独特な演出で捉えているのだ。

また、土本典昭の精神を引継ぎ平行線の議論を捉え続けるパートを第三部に配置し、前半二部、計4時間かけて意外な角度から水俣病を捉えていく。第一部では、偽患者として認識されてしまった者が医者の認識不足により被害を受けていたことが明らかになる過程を捉えている。医者は、手足の痺れに着目していたが、本質的な問題は脳細胞にあったことに気づく。つまり医者の勉強不足による悲劇だったのだ。

第二部では、汚染水をセルに格納し、埋立地となった場所に注目する。海に潜ると、セルが経年劣化し、腐食剤の効果がなくなっていることに気づく。そして、セルの表面からも水銀の成分を確認できることが明らかとなる。研究者に見解を訊く。山に埋め立てた方がいいのでは?という質問に対して、トンデモない発言をする場面にゾッとする。

そして第三部では、『ニッポン国VS泉南石綿村』に引き続き、ドラマ版『日本沈没』かと頭を抱えたくなる平行線の議論が展開される。登場する役人は、圧力をかけられているのか婉曲的な発言で煙にまこうとしている。謝っているように見えて明らかに面従腹背しているのだ。

それが「お察し申し上げます」といった失礼極まりない発言に反映されていく。

水俣病は全くもって解決していない。『水俣曼荼羅』に被害者に寄り添いながら、このデッドロックの問題点を一つ一つ指摘し続けた力強い轍を観た。

2021年11月27日より渋谷シアター・イメージフォーラムにて公開
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