リコ

もう雪は降らないのリコのレビュー・感想・評価

もう雪は降らない(2020年製作の映画)
3.7
もう雪は降らない。
もう奇跡は起こらない。

シュモフスカ監督の「ラヴァーズダイアリー」は配信で見たことがあり、まあ痛々しい胸糞映画だったので、今回もトチ狂った発狂作かと思いきや、意外と美しいイメージが連続する寓話映画だった。

主人公の謎めいたマッサージ師兼催眠術師のジェーニャを演じるのは、「ストレンジャー・シングス」のアレクセイ博士ことAlec Utgoff。ストシンの時はダサい眼鏡をかけた垢抜けないソビエト人だったけど、今回は筋骨隆々のミステリアスな青年役でガラリとイメージが違っていた。黒のタンクトップがやたら似合う。 
Alecさんは実際にウクライナのキーウ出身で、子供の頃にイギリスに移住してきたとwikipediaにあった。

ストーリーはよくある"訪問者"ものだけど、住民たちのトラウマや欲求不満が溶かされていく描写が美しくユーモラスなので、ずっと見ていられる。優しい「テオレマ」というべきか。(ひとつの町単位を巻き込む点では、ブライアン・シンガーの「パブリック・アクセス」に近い)催眠術にかけられた患者が彷徨う深い記憶の森のシーンが美しかった。(ブルドッグのわんこにまで適用されるのは笑ったけど)
住民たちとはあくまでビジネスの関係を通すジェーニャが唯一心開く相手である人妻と、チェルノブイリ原発事故の為に亡くなった彼の母を演じている役者が同じなのは、もちろん目配せだろう。なので、彼女とジェーニャのベッドシーンがあったのはちょっと残念。抱擁とキスシーンだけでも、言わんとすることは分かるのになー。

アガタ・クレシャ演じる未亡人がジェーニャを誘惑する場面で流れている曲は、エリック・カルメンの「Never Gonna Fall in Love Again」で高度なギャグか?と思って一人ウケてたのだが、エンドクレジットでは原曲のラフマニノフの交響曲第2番になってたので、偶然だろう多分。

大オチとしては、日本語字幕を担当した方が○○深雪さんという方だった。
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