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ノマドランドのmadokaaaのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
3.5
2021年アカデミー賞において主要6部門でノミネートを果たしている注目作品。

主演を務めるのは「スリー・ビルボード」のオスカー女優フランシス・マクドーマンド。

アメリカ西部の路上に暮らすノマド(車上生活者)たちの生き様を、大自然の映像美とともに描くロードムービーである。

何とも形容しがたい作品。
この映画の感想を聞かれて、面白かったとは答えられそうにないし、ある人には刹那的でとてつもなく退屈な映画だったと答えるかも。

ただ観終わったあとに人生の余韻を噛み締めるような、不思議な奥深さが残る作品でもある。

本作がアメリカで高く評価されてる理由は分かる気がする。
ネバダ州の乾いた大地、広大な景観からは西部開拓時代を思い起こさせるようなロマンが漂うし、この映画のもつ退廃的なムードはヒッピームーブメントに通じる懐かしさを感じる。

既存の価値感や生き方から脱却し、キャンピングカーでアメリカ各地を気ままに旅をするというのは60'sを生きてきた人にとってはいつまでも憧れなのかもしれない。

コミュミティでの物々交換、行く先々で出会うノマド達との心の交流、バーニングマン(的なイベント)、
過酷な一面は描かれつつも、本作の中でのノマドたちはあまりにもこの車上生活を謳歌しているように見えるので、どうしてもそこに至るまでの背景を忘れてしまいそうになる。

実際は望んで車上生活をしてる人ばかりではないし、街が閉鎖されたことで居住地を奪われた者、資本主義経済の餌食となった者、様々な経緯で「路上」へと追い込まれてしまった人間も多い。

もちろん望んでノマドを選択している者もいるけど、人としての尊厳を傷つけられない場所が唯一ここなのかもしれない。

本作ではここに至る経緯とその心情は大きくは描かれていない。
アメリカの社会問題にメスを入れて批判するでもなく、同情心を煽るような見せ方をするでもない。
ただただ彼らの生活を淡々と描くだけのストーリーがよりいっそうリアルさを際立たせる。

これもひとつの生き方に違いないし、ノマドだから感じることができる自然の美しさもある。
もしかしたら私達よりずっと生きていることへの実感を感じているかもしれない。

既成の価値観に縛られずに生きるノマドたち。
本当の自由とは?幸せとは?ついついそんなことを考えてしまうけど、ただただそこで生きている。私達と同じようにそこで懸命に生活をしている。
それだけが答えのような気もしてくる。

アメリカ人が感じてきた自由への渇望であったり、共同体運動社会への反骨精神。おそらく西部開拓時代から続いてきたであろういわゆるフロンティア精神にピンとこない日本人にとってはこの映画の本質を理解するのは難しいのかもしれない。

もしくはまた状況や価値観が変わった時に観れば、見え方がだいぶ変わるかもしれない作品。
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