けーすけ

旅立つ息子へのけーすけのレビュー・感想・評価

旅立つ息子へ(2020年製作の映画)
3.2
自閉症の息子ウリの父であるアハロンは、裕福ではないながらも二人で暮らしていた。しかし別居中の妻・タマラはウリの将来を考え、支援施設への入所手続きを進めていた。アハロンは養育不適格と裁判所に判断され、ウリは施設へ入所する事となったのだが、入所日に父と離れたくないウリはパニックを起こしてしまった。困り果てたアハロンであったが、息子と共に過ごしたい一心で逃避行を始めることに・・・




実話ベースの物語との事。自閉症の子供を持つ両親の葛藤が描かれ、親子のロードムービー的な側面もある内容。



飼っている金魚を大切にし、チャップリンのDVDを観るのが大好きなウリ。おそらく年齢的には20代後半~30代くらいの設定でしょうか。
そして父親のアハロンはそこそこに有名なグラフィックデザイナーでしたが、息子のために引退。60代にさしかかったくらいの年齢といったところでしょうか。


アハロンの年齢や不安定な収入といった事もあり、それぞれの将来を考えた結果、母親のタマラはウリの施設への入所を決めるのですが、どうしてもそこに「母親の愛情ってないのかな?」と考えてしまい、モヤモヤした部分。
もちろんウリが幼少から父親に強く懐いており、母親から遠ざけていたという背景はあるのですが、それでもその解決方法でいいのかな、、、と。


アハロンと離れたくないウリはパニックを起こし、どうにも対処できなくなったアハロンは無計画なまま逃亡する事に。アハロンも過度に「ウリには自分がいないとダメだ」と考えており、共依存の状態とも言える二人の歪な関係が描かれております。

行くあてもさほどない上に資金も無い、頼れる人物もほぼいない。どうあがいても良い結末は見えない中、二人の逃避行はどうなるのか。そういった部分でもドキドキする作りとなっておりました。



父親・アハロン役のシャイ・アヴィヴィの息子を思う気持ちと、現状維持は厳しいと考えて葛藤する、感情が綯い交ぜになったような表情が胸に刺さったのと、ウリを演じたノアム・インベルの演技がとても凄かったです。

ただ、おそらく自閉症の男性という題材ゆえに入れたのかと思いますが、ウリがプールで異性に性的興奮を覚えた場面と、ある女性の風呂に関する場面は必要だったのかな、と個人的に好みの演出ではなかったのでマイナス。



原題である『Here We Are』は「(目的地に)着いたよ」といった意味合いかと思いますが、そこに邦題の『旅立つ息子へ』を重ねて考えると、少し切ないけど希望の持てるやさしい終わり方は良かったです。

子供が親から離れていくより、子離れできない親の方が愛情が強力なのかなー、と考えさせられたり。でも子供は突き放しても意外と早く環境に順応していくものなのかもしれないですね。


2021/03/05(金) オンライン試写で鑑賞。
[2021-026]
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