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ヤクザと家族 The Familyのけーすけのレビュー・感想・評価

ヤクザと家族 The Family(2021年製作の映画)
4.9
身よりをなくし、自暴自棄になって荒れた生活を送っていた山本賢治(綾野剛)は、ある日命を狙われた柴咲組の組長・柴咲博(舘ひろし)をたまたま助けた。ヤクザを毛嫌いしていた賢治だったが、後に今度は柴咲に窮地から助けられ、ヤクザの道へ足を踏み入れていくのであった。賢治と彼に関わった人たちの20年を描いた物語。




第43回日本アカデミー賞で作品賞含む3冠を獲得した『新聞記者』の藤井道人監督作品。タイトルにズバっと「ヤクザ」が入っておりこのご時世に若干危険な題材ですが、任侠のテイストも残しつつ心揺さぶるヒューマンドラマになっております。


まだ2021年の1月ですが、個人的に本年の邦画暫定No.1となりました。
[2/7追記:2月に2回目鑑賞をして、気分的スコアは4.7⇒4.9と上がりました。-0.1はボッコボコにやられた某人の顔の傷の少なさと、SNSのくだりがひっかかったので。]


露骨な性描写はありませんが、暴力、流血等はそこそこに激しいので苦手な方はご注意を。あと、オフィシャルサイトのStoryに1999年から2019年までのあらすじが書かれてますが、最初から最後までけっこう大事な部分含めて記載してあるので読まない方がいいかもです(前情報一切なしでも諸々理解できる映画のつくりでした)。


以下、核心ネタバレ無しの感想ですが、内容には触れますので未見の方は是非ご鑑賞後に…。









冒頭、少し長回しのカットで賢治を演じる綾野剛の背中を追いかけ、最後に顔を映すシーンで「あ、これ僕の好きなやつかも」と予感。

その後、とある事から柴咲組と敵対する侠葉会のヤクザ達に賢治が追われ街中を疾走する場面があるのですが、細い路地での臨場感あるカメラワーク、逃走、追走、激しい殴り合い、、、どれもが素晴らしいカットで、この時点で傑作と確信しました。
[2/7追記:かなり危ないシーンもあるのですが、綾野剛はスタント使わずの体当たり演技でした。凄すぎ。]


そんな感じで、序盤は賢治の荒くれと、彼が後にオヤジと慕うようになる組長の柴咲博と家族の盃を交わすまでが描かれるのですが、タイトル・出演者のテロップが最高に最高のタイミングでブチこんできて、それが素晴らしくて完全にヤられました(語彙力崩壊)。
いやー、めちゃめちゃにかっこいいアバンタイトルを観ましたよ…。



そしてこれはもう一度観て細かく確認したいのですが、各年代ごとに撮影の雰囲気が変わっており、特に2019年の章ではアスペクト比も変わり薄くモヤがかかったような色調が、時代の流れに取り残されて浦島太郎となった賢治の心情を現していたように思います。
[2/7追記:2019年パートは青みが強めの色調でもありましたね。疎外感、切なさが強調された印象です。]



本作では1999年、2005年、2019年と時代ごとでのヤクザに関する栄枯盛衰が描かれるのですが、主要登場人物がそれぞれの年代を演じているのも凄いところ。
正直なところ19歳の賢治演じる綾野剛には少しだけキツい感はありましたが、それでも「若かりし頃のやさぐれ」⇒「(組への)忠心ある切れ者ヤクザ」⇒「時代の流れに置いて行かれたヤクザ」の演じ分けは流石の一言でした。

2005年を舞台としたいくつかのエピソードのうちの一つ。賢治がある女性に恋に落ちるのですが、その不器用さには愛おしさを覚える人もいるかと。ヤクザな道を歩む者でも惚れた女性の前になるとただの男の子って感じで可愛らしい(ただし、かなりめんどくさい笑)。


[2/7追記2005年パートからもう一つ。綾野剛がオヤジ達と車で釣りにいくシーンがあるのですが、観るかぎりワンシーンワンカット?一瞬「ここで繋いだかも?」と思う部分はあるのですが、確信持てず。どうやって撮影したのか、超見どころです。]


また、時代ごとのセットや描写にも抜かりない感がヒシヒシと。2019年、賢治を出迎えた車がプリウスだったのには笑いつつも、細かい部分もキッチリ押さえてるな~!と感嘆。
ガラケーからスマホに転換していった時代描写も交えつつ、ヤクザが過去のものとされていく見せ方に胸が締め付けられる気持ちになるという。


後半は、暴対法改正案が施行された事によって彼らの居場所が無くなっていくさまが描かれるのですが、足を洗っても“元・ヤクザ”というレッテルがへばりつき、更生をする機会や、ただ普通に一般の人として生きていく事すら奪い取られるというのは考えさせられる部分でした。

もちろん、暴力団やヤクザ、犯罪に関わる行為は一切肯定できない事が大前提です。ですが、まっとうに生きていこうとしている元ヤクザに関わっただけで、周りの人たちから後ろ指をさされウワサされるという不条理さを含めて、鋭く切り取っていたように思います。




綾野剛の「コイツ、キレたら何するかわからん」という雰囲気や、悲哀ある演技は最高の一言。次の10年でどんな役をこなしていくのか、とても楽しみ。

組長でもありオヤジでもある“家族の長”を演じた舘ひろし。基本優しい雰囲気をまとっているのですが、敵対するヤクザと対峙したシーンの凄みは圧巻でした。やっぱりオーラが半端ない。


北村有起哉や市原隼人といった役者陣も好演しておりましたが、後半から登場した磯村勇斗の存在感が“今っぽくて”とてもマッチしておりました。
あと出番としては短いのですが、中学生役の女の子・彩を演じた小宮山莉渚もキラリと光っており、今後の活躍に期待です。



エンディングを締めたmillennium paradeの「FAMILIA」も余韻に浸るに最高の楽曲となっておりますので、エンドロールもぜひ最後まで。




そういえば劇中でも答えが出てない問いかけがあったんです。
「ヤクザって、なんで夜でもサングラスしてるの?」
誰かこの答え、わかれば教えてください・・・


2021/01/21(木) 試写会にて鑑賞。ユナイテッド・シネマ豊洲 スクリーン10 G-24
2021/02/06(土) 2回目鑑賞。TOHOシネマズ日比谷 14:30回 スクリーン7 E-13
[2021-009]
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