雷電五郎

ハーフ・オブ・イット: 面白いのはこれからの雷電五郎のレビュー・感想・評価

4.2
成績優秀なエリーがアメフトの万年補欠なポールにラブレターの代筆を依頼されることから始まる3者3様の「愛」のあり方を描いたヒューマンドラマです。

作中、冒頭でエリーのモノローグがあったように、この映画はラブロマンスものではありません。

厳格な親に育てられ、なかなか自分の意見を口にできない少女アスター、頭脳明晰ながら中国人であることから遠まきにされ揶揄され孤独な少女エリー、頭は良くないものの良心的な少年ポール、三人ともに普通の少年少女ですが、お互いに関わり合うごとに愛、即ち恋愛にとどまらない情愛のあり方を各々が見い出していくのがとてもみずみずしく繊細で非常に引き込まれました。

冒頭のギリシャ神話における「完璧な人間が二つに裂かれた話」は、海外でよく言われるところのソウルメイトやベターハーフといったものなのだと思います。
人間は魂の片割れを求めるだけのために生きている訳ではないとしつつも、明確に精神的に強く惹かれ合っているエリーとアスターに片割れ同士とも言える共感と愛情が芽生えていくのが印象的でした。

そして、アスターを思うエリーの気持ちを知った際は「許されない罪」と言いながらも、エリーを理解するために悩むポールの姿がまた良いです。
ポールもまた一方的に恋を押し付けることが愛ではないと理解し、エリーに惹かれると同時に彼女がかけがえのない友達であることにも気づく。エリーとポールは友情という愛によって結ばれた片割れ同士とも受け取れるのが心憎いです。

現実的なシチュエーションの中で彼ら三人の感情は作中いつもロマンチックな余情に満ちており、それがとても触れえがたいように細やかで美しく感じられました。
エリーとアスターの温泉のシーンとやかましい自宅を離れてエリーの家でソーセージタコスを作って振る舞うポールのシーンがとっても好きです。

男女だから惹かれ合ったら必ず気持ちが恋愛になるとは限らない。同性だから惹かれ合っても恋愛にはならない。
そう思っている人は決して少なくはありませんが、人の数だけ愛に形があるのなら、どのような関係性であっても本人が望むあり方がベストでありオンリーだと思える上質な作品。

この映画はLGBTなどの問題提起というのではなく、お互いを思いやる友情の話でもあり、少年少女がお互いに触れて前へ足を向ける希望の話でもありました。
バランス感覚が非常にうまく、恋の話をメインに見せかけつつ、実際は様々な愛の形が行き交う作品でもあります。だからこそ、胸に沸き起こる感情が様々な色に変化して最後までジーンとした余韻が残り続ける素晴らしい作品でした。

面白かったです。
雷電五郎

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