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護られなかった者たちへのkuuのレビュー・感想・評価

護られなかった者たちへ(2021年製作の映画)
3.8
『護られなかった者たちへ』
映倫区分 G.
製作年 2021年。上映時間 134分。
映像化もされた『さよならドビュッシー』などの個人的にはしばしば読んでます中山七里の小説を原作にしたミステリードラマ。
宮城県で発生した連続殺人事件の容疑者となった青年と、彼を追う刑事の姿から日本社会が抱える格差の実態を浮き彫りにする。
監督は『楽園』などの瀬々敬久。
『るろうに剣心』シリーズなどの佐藤健、『のみとり侍』などの阿部寛のほか、清原果耶、倍賞美津子(姉妹共に飾らない年齢相応演技は神)、吉岡秀隆、林遣都らが出演する。

今作品は、東日本大震災から9年後の2011年から、県の福祉部生活支援課に勤務する男性が縛られ餓死しているのが見つかった2件の残虐な殺人事件を中心に描かれていました。
津波で家族を失い、その重荷をありのままに背負っている県警の捜査員・苫篠は、若手刑事・蓮田とともに事件の捜査に当たり、やがて放火の罪で出所したばかりの青年・利根を。
一方、もうひとりのソーシャルワーカーの丸山も同行する。
円山は生活保護の申請を調査しているが、受給者としばしば衝突し、仕事をする上で保護が必要なほどだ。 
また、現在の時間軸にフラッシュバックを挟むことで、津波直後の主人公たち、特に利根と年老いた遠島けいの関係が描かれ、それが現在の状況にとって極めて重要であることがわかる。

瀬々敬久監督は、『ホワイダニット』(ホワイダニットてのはミステリー用語で"Why done it"をカタカナにしたもの。 『なぜ[その犯行を]行ったのか』ちゅう犯行動機の解明をメインに据えたミステリーを指す)として始まった今作品を、最終的にはまったく別のものとして見せています。
その文脈は、日本の福祉による災害の処理と、破壊の規模やクレームの数を考慮して浮上した激しい問題に焦点を合わせてました。
この二次的な要素に対する全体的なアプローチは、この映画の最も優れた点のひとつであり、瀬々敬久監督は、あらゆる側面からこの問題の全体像を浮き彫りにしています。
この点で、彼は、津波ですべてを失った人々が生きていくために、基本的に生活保護から幾ばくかかのお金の支援をしてもらわなきゃならないこと、多くの人が仕事によって自分自身を定義する国で、国によって支援されることの社会的スティグマ(一般と異なるとされる事から差別や偏見の対象として使われる属性、及びにそれに伴う負のイメージの事を指す)、また、多くの人が、ある時点で資格がない、あるいはなくなったにもかかわらず受給しようとしたことを描いてます。
さらに、ソーシャルワーカーが、より多くの必要としてる人たちの支援を得るためにニーズを利用したり、前述の人種差別から、本当に支援が必要なのに断られた人々に対して法律の条文を使い果たすことを決めたりした事実とともに、彼らのもとに舞い込む大量の仕事と請求の調査に直面した困難も紹介されていました。
その意味で、震災によって社会のあらゆる階層の人々が被害を受けたことを瀬々が示し、苫篠や利根がそのことを雄弁に語っているのも、現実的でありながら興味を惹きました。
また、苫篠と利根は、獄中生活者が出所後に直面する困難や、血のつながりのない者同士の絆を、別の側面から描き出してもいるのは巧みでした。
この徹底したアプローチが犯罪スリラー的な要素とバッチし融合しており、過去に起こったフラッシュバックを通じて、徐々に本当のことが明らかになっていく手法は、むしろ巧みで、最初から最後まで興味を惹きつける物語に仕上がっていると個人的には思いました。
邦画や韓国作品の犯罪映画でよく見られる、ある時点から犯人がわかっていて、その理由に焦点を当てるという手法も、この作品ではうまく機能してると思います。
ただ、実際のゴール地点より延長し、120分を超えてしまう上映時間は、観る人によっては暗礁に乗り上げてる様に感じるのじゃないかとは思います。
しかし、その点を除けば、今作品はすべての面でかなり高い水準に達してたし、利根役の佐藤健と苫篠役の阿部寛の演技は彼らのファンとしての贔屓目抜きとしてもホンマ善かった。
トラウマちゅう共通点と、警察官という反面教師ちゅう、鬱という正反対の結果とも受け取れる2つの役柄を見事に表現していました。
また、円山役の清原果耶の演技にも忘れれない。彼女のミステリアスな態度は、今作品全体の雰囲気の大きな要素の一つとなってました。
また、今作品の撮影は、この地域の災害の短期と長期の両方を捉えており、彼の時折見せるノワール的なアプローチは、今作品の犯罪の側面で非常によく機能していました。
特にパノラマショットや夜のショットは、ドラマチックな前提にもかかわらず、非常に美しい作品に仕上がっていて魅了されました。
多少の問題点はあるものの、今作品は犯罪スリラーのアプローチを通して社会的な意見を強調することに成功した、文脈的にも興味深い映画でした。

※作中、SNS投稿文を作品のフラッシュを背景に朗読される文章はとても胸を打つものでしたし、載せておきます。
ただ、ネタバレに触れてますので、どうか作品をご覧になってない方はご注意ください。



私は、若葉区保健福祉センターに勤める円山幹子という者です。
この度、 一身上の都合により、職を辞することにいたします。
この場を借りて、言いたかったことを残しておこうと思います。
生活保護の現場では、みんな懸命に働いています。
不埒な1%以外は。
でも一生懸命だけでは駄目なんです。
なぜなら生活保護は、最初で最後のセーフティネットだからです。
飛び越えてください。
原理原則を破ってでも、そこを突破してください。
命を救ってください。
申請者たちに自己責任を押しつけるなら、職員たちも責任を取ってください。
私も、これが終わったら責任を取るつもりです。
その上で護られなかった人たちへどうか声をあげて下さい。
心を閉ざしていると自分がこの世に独りぼっちでいるような気になります。
でも、それは間違いです。
この世は思うより広く、あなたの事を気に掛けてくれる人が存在します。
私もそう言う人たちに救われた一人だから断言できます。
あなたは決して独りぼっちじゃありません。
もう一度、いや、何度でも勇気を持って声をあげて下さい。
不埒な者があげる声よりも、
もっと大きく、
もっと図太く。
kuu

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