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ペルシャン・レッスン 戦場の教室のkuuのレビュー・感想・評価

4.0
『ペルシャン・レッスン 戦場の教室』
原題 Persian Lessons 映倫区分 G
製作年 2020年。上映時間 129分
第2次世界大戦時にナチスドイツの強制収容所に入れられたユダヤ人の青年が、自身をペルシャ人と偽り、架空のペルシャ語のレッスンを行うことで生き延びていく姿を描いた戦争ドラマ。
監督は『砂と霧の家』で知られる、ウクライナ出身のバディム・パールマン。
主人公のユダヤ人青年ジルを『BPM ビート・パー・ミニット』のナウエル・ペレーズ・ビスカヤート、ナチスのコッホ大尉役に『約束の宇宙(そら)』のラース・アイディンガー。

第2次世界大戦中、ナチス親衛隊に捕まったユダヤ人青年のジルは、自分はペルシャ人だと嘘をついて処刑を免れ、一命を取り止める。
しかし、そんなジルに、将来イランのテヘランで料理店を開きたいという夢を抱くナチス将校のコッホ大尉が、ペルシャ語を教えるよう命じてくる。
とっさに自ら考えたデタラメの単語をペルシャ語と偽って披露したジルは、コッホ大尉の信用を取り付けることに成功するが、その後も偽のペルシャ語レッスンを続けることになり。。。

2021年に開催される第93回アカデミー賞の『最優秀国際長編映画賞』部門にベラルーシが正式応募した作品だが、製作に携わった人物の大半がベラルーシ出身ではなかったため、アカデミーは失格とした。
アカデミー賞は欺けなかったが、ジルはナチを欺く単純なテクはハラハラしながらも嵌まって観た。
ウクライナの映画監督ヴァディム・ペレルマンによる、心配になるほど丁寧ではあるが、見事な演技のホロコースト・ドラマでした。
映画の冒頭には『実話にインスパイアされた』てな感じなんがあったが、ここでの信憑性の問題を考えれば、その主張の前に『とてもゆるやかな感じに』の言葉をつけても差し支えないんやろな。今作品と同じようなテーマの多くの映画と同様、今作品もサバイバルの物語でした。
ホロコーストの中で生き延びることはそれぞれ奇跡的なことやけど、バディム・パールマンはそれを作るに当たって、独自の視点と感性でこのテーマに取り組み、今作品を良質な映画の仲間入りをさせた。
あんまり視聴してる方が思ったほど少ないのは驚き。
今作品で語られるストーリーは奇想天外なものやけど、脚本家イルヤ・ゾフィンと監督が興味を持ったのは人間的な側面やと思う。
今作品の主人公は、アントワープ出身のラビの息子ジルで、占領下のフランスで逮捕され、絶滅させられる運命の輸送車で強制送還される。
偶然と、おそらく寛大さと、本への情熱が彼を助けたんやろ。
囚人たちを未知の世界へ、そしておそらく死地へと運ぶトラックの中で、彼はペルシャ神話の本を手に入れ、それを利用してユダヤ人ではなくイラン人であると主張し、即座の処刑を免れる。
この幸運だけでもかなりのラッキー野郎。
彼が行き着いた強制労働収容所では、将校の一人が元シェフで、ドイツ敗戦時の夢でありプランはイランに行くこと(まぁ実際、ナチ党員であることの色んなネガティブな感情が蠢いとるんやろと推測はできるが)。
ジルはペルシャ語を教えることになる。
ただ、彼はペルシャ語をまったく知らないので、独学で学ぶわけにもいかないし、言葉自体を創作しなければならない。
ホロコーストの過酷さを思たら笑ったらあかんねんけど、ジルの嘘を信じるコッホ大尉のくだりはクスッと笑えた。
でも深読みしたら、ナチ党員の将校でさえバカだと暗に含んでるようにも思えた。
すでに創作した単語を覚えるために、ジルは収容所に収容された人々の名前が書かれた名簿を使う。
ジルとコッホ大尉の知的?バカげて笑えるよな?駆け引きは、処刑人と被害者、拷問者と囚人、生徒と教師、そして、生き残るための共犯者という、より複雑な関係へと変化していく。
発明された(創作された)言葉の数々が重要な役割を果たす。
死の危険は常に差し迫っており、ジルにとっては生き延びる毎日が勝利と云える。
物語は複雑で象徴的な重みを持ち、同時に教訓主義や過剰なレトリックを避けている。
台詞も個人的には巧みやと思う。
加えて、アルゼンチン生まれの俳優ナウエル・ペレス・ビスカヤルトは初めて見たけど、濡れ鼠のようなジル役の彼の演技は巧みやった。
ドイツ人俳優ラース・アイディンガーがコッホ大尉を演じてたが、処刑人たちの行為に対する憤激と人間的な側面、戯画化と行動の理由への理解とのバランスもまたよかった。
アイディンガーは、この難しい役柄をこれまた巧みに演じ成功させたと思う。  
彼のキャラは、ハンナ・アーレントが『凡庸な悪』なんて呼んだものの好例かもしれへん。
ヨナス・ネイの存在も気になったかな。
彼の役柄はそれほど複雑ではないけど、この若手俳優はそれを内容で満たしている。
義務を犯罪に変えるドイツ軍将校と兵士の間の人間関係というサイドプロットは、物語の中心から遠く離れているように見えるかもしれないけど、個人的な意見では、それは文脈を理解するのに役立ち、囚人にとって生死の分かれ目が偶然と死刑執行人の気まぐれに左右される奴隷労働収容所の絵に詳細を加えてた。
この複雑で印象的な映画の解釈のひとつやと思う。
面白かった。
kuu

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