うみぼうず

悪は存在せずのうみぼうずのレビュー・感想・評価

悪は存在せず(2020年製作の映画)
4.0
世界で二番目に死刑執行が多いというイランで作られた、死刑制度を否定するメッセージ性の強い映画。本国イランでは上映禁止、監督は逮捕されている理由も頷ける、死刑を執り行う側を取り扱っている。

死刑というテーマながら重苦しくはなく、比較的分かりやすさもある。四篇のオムニバス形式なので飽きはこないが、四作続けて観ることで作品の深みは増す二話以降は徴兵に纏わるストーリーとして括られるが、特に第一話の衝撃は大きく、ショートムービーの単作としても秀逸。信号を一つ見送るあたりに語られない心理が表さられているのかなと。
第二話は単独として観ると少し異質で、一話からの落差も感じられるが、四話を見終えた後改めて観ると感慨深い。
三話は詩的さも感じさせ、政治犯という存在について示唆しつつストレートに死刑制度への批判と反抗が語られている。

それにしてもイラン国民の死刑制度に対する意見と反応が分からず、納得いかない法律だった場合に抵抗することがどの程度現実的なのか挑戦的なのか、反抗が望まれていることかのかの判断もできないのは少しアンフェアな気はする。
法律で定められているから、免許もパスポートも休暇も取れないことを覚悟して逃げるのが吉か、仕方ないと諦めて死刑執行するのが是か。日本人は意外と迷わず手放しで後者を選びそうな気がする。

行間を読ませずダイレクトにテーマを投げてくるが、演出は奥行きあって、ラストの動かない車のカットはドラマを感じさせる。死刑執行者を扱う物語も数あれど、イランという国柄を感じながら観れる良い作品でした。
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