MasaichiYaguchi

実りゆくのMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

実りゆく(2020年製作の映画)
3.5
仕事の関係で長野県飯田市内にある、塀の代わりにリンゴの木に囲まれた工場に行く機会があるが、今の時期に客先同伴だとリンゴ狩りをしたりする。
映画ではチラッと映したが、リンゴの栽培は不要な枝を切る「剪定」から始まり、育ちの良い実に養分を集中させる為の「摘花・摘果」をし、実に適度に光が当たるように「葉摘み・玉回し」を行う。
そして早いもので8月から熟度を見極めて、そしてピークの10月、11月に収穫していく。
このように我が子のように手間暇掛けてリンゴを育てていくのだが、台風が直撃して落果してしまうと、それまでの苦労が水泡に帰してしまう。
だからタイトルや主人公の名前に込めた思いは、リンゴ農家をはじめとした果樹農家の人なら実感を持って伝わるのではないかと思う。
本作の主人公で長野のリンゴ農家の一人息子である実は、自分の夢であるお笑い芸人になることと、堅実に父の跡を継ぐかで心が揺れている。
吃音症のある実だが、ある“状況”ではスラスラと普通に喋れる彼は、母が亡くなってから笑わない父を笑顔にする為にも自分の夢を実らせようとするのだが…
リンゴを実らせるのと同様に夢を実らせるのも大変だ。
だが、周りの叱咤激励や諦めない心があればということを、本作はリンゴの甘い香りと共に描いていく。