スプリングス

ポゼッサーのスプリングスのネタバレレビュー・内容・結末

ポゼッサー(2020年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

〈/“哲学的ゾンビ”へ/〉


【Introduction】

“自己”とは何でしょう

過去 虫を殺してしまった“自分”
明日 目を覚まし朝食を食べる“自分”
産まれてから死ぬまでの
個人的な経験や思考の蓄積
その連続した時間の中で確立される
“同一性/アイデンティティ”

“自己”とは、
《同一性を保持して存在しているその人間自身を指す》
と定義されています

生きていて感じる
喜び・怒り・哀しみ・楽しみ
それらの集積物として“自己”は形づくられているのです

では、
“自己”を模倣・侵食する何かが私の中にいたとして
私は “自己がある” と言えるでしょうか

私が喜怒哀楽を表出した際
それが内的な情動の発露であると
あなたは判断がつくでしょうか

この場合
私という自己の“所有者/possessor”は誰なのでしょうか


【Review】

他人の脳へ侵食・侵入し、遠隔操作によってターゲットを殺す仕事をしている主人公が、潜入先の肉体に宿る“自己”と自分自身の“自己”との間を彷徨う物語。
こういった方向性のSF作品が大好物なので非常に面白かったです!めっちゃ楽しめました。(tシャツも買っちった)

自己が擦り切れる描写が生々しく、直接的な人体破壊描写よりも精神を削られましたね。もうぐしゃぐしゃで何がなんだか。楽しいね。

この作品を観ていて頭に浮かんだのが
伊藤計劃さんの『From the nothing, with Love.』という短編小説でした。007を題材に《自己とは?》を問いかけてくる物語です。
思い出したのは、今作の根幹に共通の“恐怖”を感じたからだと思います。アイデンティティの揺らぎ。自己を確立している土台の崩壊。その末に叩きつけられる《お前は何者だ?》という問い。
この物語たちは恐ろしく、興味深い不安を僕たちに植え付けてくれます。

本当に面白い映画でした。人に無理にオススメは絶対に出来ませんが、あなたが不運にもこの映画を観ることになってしまった際には、どうぞお楽しみを。


【Digression】

「私の意識に安らぎあれ」