このレビューはネタバレを含みます
1946年制作、クラレンス・ブラウン監督によるファミリー・ヒューマンドラマで原作はマージョリー・キナン・ローリングスの児童文学小説である。
フロリダの大自然の中で野生の子鹿との触れ合いを通して自然の厳しさと摂理を学びながら逞しく育つ少年とその家族との愛の物語である。
古き良き時代のアメリカ映画であるが、初めて観たのは淀川長治氏の日曜洋画劇場だったか幼年期でよく覚えていない。
自然の美しさとそこに住む当時のリアルな生活様式を精緻かつ丁寧に描いて温もりと郷愁をもたらす映画はそうはない。「シェーン」などもこれに当たるだろう。
一家の主人たるグレゴリー・ペック演ずる父親ペニーは温かくて優しいが生きていく為には厳しくもある。
そして連れそう妻は美しくて優しい母親というのが定番であるが、ここでは心に闇を抱えるナーバスな母親オーリー(ジェーン・ワイマン)が登場する。
そしてなんといっても元気闊達・利口者の少年ジョディを演ずるクロード・ジャーマン・Jrは新鮮で清潔感ある瑞々しい息子を演じてオスカーを手にしている。
当初監督ビクター•フレミング、主演スペンサー・トレイシーで進められていたがトラブルからスペンサーが降り本編スタッフ・キャストで再スタートとなったようだ。
ブラウン監督は徹底したリアリズムで撮影するとの方針で熊の追撃は本物の猟犬によるものだという。
なるほど凄まじい闘い振りで実際犬は熊の一撃にいかれてるんじゃないかと思ったりもした。
こうして外敵から家畜を守ったり、畑の作物を守ったりと厳しい自然の中での生活が冒頭描かれる。
ある日、ペニーはジョディを連れ狩りに出かけるが、途中ガラガラ蛇に噛まれてしまう。
とっさに近くにいた雌鹿を射止めジョディに命じて肝臓を抜き取らせペニーはそれを傷口に当て毒を吸い取らせる。
こういう応急処置法があるとは知らなかったが、大自然の中で人はよく学ぶものである。
そしてそばにいた子鹿をジョディは飼いたいとペニーに懇願し連れ帰る。
案の定、オーリーは猛反対。やっとのこと許しを得て尻尾が白いことからフラッグと名付けて飼い始める。
野生の子鹿が為にいたずらも絶えないがジョディと共に大自然の中で屈託なく育っていく。
フロリダはハリケーンにもよく襲われる土地柄であり、雨が降れば長雨にもなる。
精魂込めて育てた作物も全滅し生活に困ったりすることにもなる。
オーリーは嘆き悲しむだけだが、ペニーはへこたれずにジョディと一からやり直したりする。
そんなある日、芽が出た作物を子鹿のフラッグが食べてしまう。
繰り返し繰り返し作物を荒らすフラッグ。
ペニーは柵を高くするようジョディに命ずる。一人で何日もかけオーリーも最後には手伝い柵が完成するがこの柵をも難なく飛び越えてしまうフラッグ。
ペニーは死活問題もありジョディにフラッグを森の奥へ連れて行き射殺することを命ずる。
泣きながらジョディは森に入るもフラッグを逃してあげる。
しかしやはり戻って来て作物を食い荒らす。
これを見たオーリーはフラッグをライフルで撃ちフラッグは瀕死となる。
ジョディはライフルを奪い自らフラッグを撃ち楽にするという決断をする。
泣きながらジョディは森に逃げ込み家出をする。
飢餓に苦しみながらボート内で寝込み、川に流されるも蒸気船に救助されやっとのことで心配するペニーとオーリーが待つ我が家へ辿り着く。
戻ってきたジョディは両親に謝罪し一皮剥けた大人に成長していた。
児童文学小説が原作とは言いながらも家族の絆や子供への躾、あるべき教育の姿などと共に根底に美しい自然も時として牙をむくなかで生きて行くことの厳しさや本質的な動物愛護の精神などが流れていて奥深いものがある。
兎にも角にもアカデミー賞撮影賞を受賞した作品だけあって実に素晴らしい大自然を色彩豊かに捉えていて、そこに人々の生き抜く姿を誠実に淡々と捉え奥深い名作に仕上げていると思う。