猫脳髄

フルチ・フォー・フェイクの猫脳髄のレビュー・感想・評価

フルチ・フォー・フェイク(2019年製作の映画)
3.3
2023年秋のフルチ祭り④~インテルメッツォ

イタリアン・ホラーを代表する監督のひとり、ルチオ・フルチ(1927-1996)の生涯を、ふたりの娘やスタッフ、キャストらへのインタヴューで辿るドキュメンタリー。冒頭でフルチに扮した俳優Nicola Nocellaをインタヴュアーに位置づけ、彼のモノローグを挟みながら進行する。ドキュメンタリー作品としては正直、平凡な出来である。

ただし、作品の多くがわが国でも紹介されるマリオ・バーヴァやダリオ・アルジェントに比べ、コメディを中心としたフルチの初期作品はほとんど知られておらず、まとまった評伝などもないなかでは貴重なインタヴュー集ではある。

インタヴュイーの多くはフルチの生活実態、思い出など、人となりや伝記的出来事を語っており、作品分析・評価などにはほとんど踏み込まない(※1)。特に、妻を自殺と言うかたちで亡くしたフルチにとって、ふたりの娘(長女アントネッラと次女カミッラ)との関係は複雑なものだったようである。特に、フルチの助監督やセカンドユニット監督を務めた次女へのインタヴューは本作の核になっている(※2)。

フルチは多作ではあるが、バーヴァやアルジェントに比べると「全盛期」が短く、マスターピースも少ない。本作でも語られるとおり、質も相当バラツキがある(※3)。早撮り気質とプロデューサーに恵まれず外的要因の変化に対応できなかったことが大きな要因と思われる。コメディ出身らしく、自身も作品に登場することを好んだフルチ。本作だけではその内奥に分け入ることはできないが、作品鑑賞の足掛かりにはなる。

※1 映画評論家ダヴィデ・プリチへのインタヴューは興味深い
※2 カミッラ・フルチは本作編集中に逝去しており、彼女に捧げる作品となっている
※3 フルチは同じモティーフを複数の作品で繰り返し使用する傾向があるのは興味深い。バーヴァやアルジェントがどんな凡作でも一定の品格を備えるのに対し、フルチの駄作には目も当てられない
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