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エルヴィスのkuuのレビュー・感想・評価

エルヴィス(2022年製作の映画)
4.0
『エルヴィス』
原題 Elvis,
映倫区分 G.
製作年 2022年。上映時間 159分。
『キング・オブ・ロックンロール』と称されるエルビス・プレスリーの人生を、バズ・ラーマン監督のメガホンで映画化。
スターとして人気絶頂のなか若くして謎の死を遂げたプレスリーの物語を、『監獄ロック』など誰もが一度は耳にしたことのある名曲の数々にのせて描いていく。
オースティン・バトラーがエルビス・プレスリー役に抜てきされ、マネージャーのトム・パーカーを名優トム・ハンクスが演じる。

ザ・ビートルズやクイーンなど後に続く多くのアーティストたちに影響を与え、『世界で最も売れたソロアーティスト』としてギネス認定もされているエルビス・プレスリー。 
腰を小刻みに揺らし、つま先立ちする独特でセクシーなダンスを交えたパフォーマンスでロックを熱唱するエルビスの姿に、女性客を中心とした若者たちは興奮し、小さなライブハウスから始まった熱狂はたちまち全米に広がっていった。
しかし、瞬く間にスターとなった一方で、保守的な価値観しか受け入れられなかった時代に、ブラックカルチャーを取り入れたパフォーマンスは世間から非難を浴びてしまう。
やがて故郷メンフィスのラスウッド・パークスタジアムでライブを行うことになったエルビスだったが、会場は警察に監視され、強欲なマネージャーのトム・パーカーは、逮捕を恐れてエルビスらしいパフォーマンスを阻止しようとする。
それでも自分の心に素直に従ったエルビスのライブはさらなる熱狂を生み、語り継がれるライブのひとつとなるが。。。

余談からはじめます。
主演のオースティン・バトラーは、エルビス・プレスリーについて、『彼(エルビス)が若くして母親を亡くしていることが際立っている』と述べてます。
バトラーもまた、若くして母親を亡くしていて、二人とも23歳の時に母親を亡くしている。
オースティンは、その痛みをエルヴィスと共有し、その悲しみを表現に生かしたそうです。
また、エルヴィスは、若いころは細身の体格だったが、アマチュア・ボクサーの才能があり、学校の代表選手にもなっていた。
この特技は、映画界でしばしば乱闘に巻き込まれた際に役立ってます。
烏滸がましいながら、若かりし日に母を亡くし、拳闘を愛するエルビスに個人的には共感を持ってます。
ただ、エルビスは、実生活でもメイクをしていたのは驚きはだし、彼はメイクアップ、特にアイラインがとても好きやったんですが、小生はまだメイク男子にはなれないかな。
10代の頃、映画館の案内係をしていたエルヴィスは、トニー・カーティス主演の映画を観て、この俳優の大ファンになり、数年後、『ラットレース』(1960年)の撮影中、エルヴィスはついにカーティスに出会い、友となった。
トニーからアイラインの引き方を教わり、ややスモーキーな印象に仕上げた。
これは、実は男性俳優やエンターテイナーにはよくあることだったそうですが、そう思えば、エルビスは実生活でも最新を歩んでた人だったんだなぁとうかがえる。
それ以来、エルヴィスはショーや日常生活にメイクアップを取り入れるようになったそうですよ。
また、ラスベガス公演でエルヴィスがデリンジャー・ピストルをブーツに入れるシーンは事実だそうで、殺害予告を受けてから、このようなことをするようになったそうですが、ここもなんとなく分かるかなぁ。
ここは相容れないが、エルビスのポルノ雑誌愛好家の一面は意外に知られてないかな。

余談がすぎましたが、今作品は、作家のビジョンそのものであり、最大限の耽溺と洗練された悲劇の断固たる勝利であると個人的には思います。
映画の独唱曲を想起させるアリアのような、贅沢で大げさなスペクタクルを作り上げたラーマン監督は、現代における善き伝記映画のひとつを形成しています。
エルビス・プレスリーという人物は、天才的なカリスマをもつ音楽性と変態(生物学でいう)ちゅう画期的なスケールで、アメリカ文化や芸術の坩堝のような存在と云える。
30年にわたるアメリカの文化的なリセットを予感させながら、彼の全生涯を160分に電光石火で要約し、あらゆる指標において、彼が真の表現家であることを決定的にしてる。
編集は、エルヴィスの生涯の物語を2時間半に凝縮するために勤しみ、動きのある直感的なもので、果てしなく魅力的なものとなっていました。大音量で盛り上がり、必要な時に爽快感を与え、最初から最後まで贅沢で勢いのあるサウンドデザインは、これまで聞いた中で素晴らしいものの一つです。
聴覚と視覚の饗宴って云っても過言じゃないかな。
今作品は、主人公のキャスティングの巧拙に懸かっていたと思う。
ありがたいことに、オースティン・バトラーの巧みな演技を目の当たりにすることができ、これぞスター誕生といえる。
トム・ハンクスは、彼が演じる物議を醸す歴史上の人物にもたらすニュアンスにおいて、すでに過小評価されている。
豪華な脇役たちもそれぞれの役を見事に演じきっており、ラーマン監督がまさに俳優の監督って異名をつけてもエエんじゃないかな。
彼は常に自分の求める演技を俳優から正確に引き出し、その過程で彼らを可能な限り美しく見せてる巧みさです。
今作品は個人的に目も耳も心も楽しませてくれ、あらゆる意味で驚異的なセンセーションでした。エルビス・プレスリーの物語を、ほぼすべての伝記映画が避けて通るか、不完全に失敗する方法で、オペラのような悲劇に仕上げてます。
彼は、プレスリーの短くも奇跡的な人生の各場面で、卓越した演出と転調によって、プレスリーを取り巻く時代精神をとらえてます。
そして、バズ・ラーマンの作品によく見られるように、映画と音楽が別々でありながら本質的に結びついた芸術形態であることを完全に理解している。
『ボヘミアン・ラプソディ』や『ロケットマン』よりも『アマデウス』に近い作品だと云えるかな。
善き映画作家による大胆な映画作りの燦然たる輝きを放つ作品でした。  
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