けーすけ

ファーストラヴのけーすけのレビュー・感想・評価

ファーストラヴ(2021年製作の映画)
3.9
女子大生の聖山環菜(ひじりやま かんな)は、画家で美術学校の教師をしている父を刺殺した。環菜は犯行動機を語らず、雑誌やワイドショーでは「動機はそちらで見つけてください」と言ったとセンセーショナルに報道されていた。
臨床心理士の真壁由紀は事件について調べ、執筆するために環菜への面会を試みる。また、由紀の義弟でもある庵野迦葉(あんの かしょう)も環菜の国選弁護人を務める事となり、由紀と共に環菜の過去を探るのであった。環菜の過去には一体何があったのか・・・



『人魚の眠る家』や『望み』等の堤幸彦監督作品。原作は島本理生による長編ミステリー小説。

『ファーストラヴ』ってタイトルで、「宇多田ヒカルの曲繋がりのやつだっけ?」とか思ってたら全然違った。
さらには恋愛ものでもなく、ミステリー・サスペンスな映画でございました。観終わったらタイトルの意味にグっとくる、重厚なドラマとなっております。

グロ・エロな描写はほぼ無いのですが、特に女性には辛く感じるだろうな…というシーンがチラホラとありました。


以下、感想をつらつらと。核心ネタバレはないですが本編内容には触れていますので未見で気にされる方はご注意ください。(かつ、かなり長文です…)











事の発端は聖山環菜(芳根京子)が起こした父親の刺殺事件。そして彼女は動機を語らない。何故なのか。

その“何故”を探っていく映画ではあるのですが、環菜の過去のみを掘り下げるだけではなく、由紀(北川景子)と迦葉(中村倫也)の過去にも「二人の間に何があったのだ…?」と思わせる部分があり、それらを絡めて明かしていく作りは面白かったです。

(因みに、迦葉=かしょう、って名前、「簡単に読めねえよ」って思って調べたら釈迦の十大弟子の一人とのことで。すぐにわかるくらいの教養を持っておくべきでした。反省。しかし子供につける名前としては凄いな)


由紀は写真家である真壁我聞(窪塚洋介)と結婚をしているのですが、我聞の事を「兄貴」と呼ぶ迦葉とは苗字が違う。そして迦葉は義姉でもある由紀の事を呼び捨てで呼ぶような間柄。一体この3人の関係性は何なんだ?ってのが、もはや環菜の事件そっちのけで気になってしまいます。

劇中でも中盤から環菜の事は一旦放置で、由紀と迦葉の過去にフォーカスした展開になるので「あれ?環菜の事件って??」となってしまった。笑

でも、これは本作の根幹を描いている部分で、環菜だけではなく由紀や迦葉の過去にあった出来事が今現在にも大きな影響を与えているという描き方でした。


単純な謎解き映画ではなく、登場人物それぞれのバックボーンを交えつつ真相に迫っていく展開は、終盤になるにつれ唸らされました。



好みが分かれそうな部分として、場面の転換時に空撮シーンが挿入され「次のシーンはこのあたりでの話ですよ~」と提示してくれるのですが、その差し込みが多いので苦手な人には合わないかも(僕は都心の空撮大好きなので、二子玉川とかで自分の勤める会社ビルが映ってて嬉しかった!)。

空撮映像同様に次の展開への暗喩的に、太陽や月、雲といった映像が差し込まれるのですが、そちらも少し多いので冗長に感じたところ。






由紀を演じた北川景子。先日観た『さんかく窓の外側は夜』では驚きの扱いでしたが、本作は主演!(しかし途中で『さんかく窓~』と同じようなシーンがあり「お前またかよ!」と笑ってしまった…)
美しさは言わずもがな、環菜との接見・面会でのやりとりや表情には突き刺さるものがありました。また、あるきっかけで過呼吸に陥るシーンの緊迫感の凄み、震えました。
因みにベッドでの絡みシーンがあるのですが、「絶対に脱がない!(露出なし)」の信念をヒシヒシと感じた部分でした(相手が誰かは伏せておきますが、男性側はもちろん上半身裸です)。



最近の個人的大好き俳優である中村倫也。今作では弁護士役という事で、“キリッ!”とした凛々しい姿が見られます。ただ、大学生の頃はそこそこなクズ描写。笑

迦葉が由紀の髪を切るシーンがあるのですが、個人的に「こいつサイコパスでは…」と笑えた部分。あと“壁パンチ”のシーンがあるのですが、破壊力が凄すぎて噴き出してしまいました。
彼の本作一番の見せ場は法廷にての「裁判長、意義あり」のセリフでしょうか。かっこよかったなあ・・・。倫也と相合傘して焼肉食べて髪切られたいぞ←
完成披露の舞台挨拶では窪塚洋介から「眉毛のピクッとした動きから瞬きまで全部覚えてコントロールしてる」とまで言わしめた抜群の存在感、my中村史上最高の倫也で惚れ直しました。



本編途中では若干蚊帳の外な扱いになっていた聖山環菜役の芳根京子。『累 -かさね-』でその実力を発揮してましたが、本作でもインパクトある役柄を演じています。

拘置所にて北川景子と接見する際のアクリル板を挟んでのやり取り。アクリル板へ反射する双方の表情がとても印象的な映し方もあったり、何を考えているのか分からない雰囲気や感情の爆発のさせ方が凄まじい。過去の事を話して涙するシーンには思わずもらい泣きでした。
被告人という立場もありずっと化粧無しなのですが(もちろん映画撮影としてのメイクはしているでしょうが)、そのあたり含めてとても魅力的な存在感でした。

そういえば観ていて気になった部分で、環菜と由紀の面会時は後ろに警察官がいる。ところが迦葉の時には不在で環菜と二人きり。「何で警察官いないの?」と思い調べたところ、“弁護士が接見するときは、警察官の立会いがありません”との事でした。勉強になりました!



由紀の旦那役、真壁我聞を演じた窪塚洋介。個人的には久々に見た気がしますが、ヒゲ面メガネがめちゃ似合う、かなりいい味を出しておりました。本作では美味しそうなポトフを作ってる姿がサマになっているという、二つの意味で美味しい演技&存在だったかと。




『ファーストラヴ』
このタイトルには色々な意味と解釈が生まれると思いますが、個人的には「最初の愛」と受け止めました。色々な事を考えさせれ、余韻あるエンディング、とても良かったです。


2021/02/04(木) 試写会・神楽座にて鑑賞。F-7
[2021-015]
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