けーすけ

ミッドナイトスワンのけーすけのレビュー・感想・評価

ミッドナイトスワン(2020年製作の映画)
4.2
2020/09/25(金) TOHOシネマズ日比谷 シアター12 10:10回にて鑑賞。J-16。本通路後ろの席にしたのだけど足元の誘導灯LEDが目に入って終始気になってしまった…。


凪沙(草彅剛)は身体は男性だが心が女性として生きるトランスジェンダー。ある日、田舎の広島で母親からのネグレクトにあっていた親戚の中学生である一果(服部樹咲)を一時的に預かる事に。養育費目当てだったので当初はうざったくも感じていた凪沙であったが、一果の抱える孤独に触れるうちに凪沙の中では変化が起き始め・・・









LGBTQものでトランスジェンダーを扱った映画というと生田斗真が主演した『彼らが本気で編むときは、』がありますが、この映画もとても良かったです。



正直なところ、予告で草彅剛の女装姿を見た時は「ちょっとキツくないか?」とも感じましたが、映画を観ていると全然気にならない。
新宿のショーパブで働き、いつか完全に性転換をしたいとお金を貯め続ける凪沙に完全になっていました。トレンチコートをまとい足早に颯爽と歩く姿がとてもカッコいい。
“芯を持って”女性として必死に生きようとしている。そのように、ぱっと見は自分自身をもって強く生きているように一見はふるまいますが、心と身体が一致しない悲しさを常に抱えて過ごしています。そんな苦悩をさらけ出した瞬間にはともに涙があふれてきました。



一果を演じた服部樹咲ちゃん、新人ってほんとですか・・・?っていうくらいに存在感が凄かった。演技は初めてだけど元々バレエの実力は相当なものだそうで、人前で演じる事には強かったのですかね。

序盤はセリフがほとんど無く、記憶では最初に実母がアパート前で隣人に因縁をつけた際に母親をなだめようとした一言。その次は凪沙の元にいった東京で凪沙に反抗した「嫌じゃ!」が実質の初セリフだったかな?途中までびっくりするくらい喋らない笑
とにかく前半は孤独を抱えた危うい雰囲気を全身にまとっていて、観る者を惹きつける力が半端なかったです。
あと椅子の投げっぷりがかっこよかったな~(でも椅子投げるのは危険!笑)。


そんな一果はバレエに出会いその才能を開花させるのですが、そのあたりから凪沙との関係性も徐々に変化が現れてきます(部屋の中で一果が寝る場所が変わったのも注目ポイント)。観終わったら豚肉のハニージンジャーソテーが食べたくなるに違いない。
ごく普通に育ってきた子供だったらトランスジェンダーとか簡単に理解はできないと思いますが、孤立を味わってきた二人だからこそ、世界が交わる感じの表現が秀逸。
夜に公園で一果が凪沙にバレエを教えるシーンがとてもよかった。東京に住む者としては新宿に二人がいるのではないかと探したくなるようなステキなシーンの一つ。


『ミッドナイトスワン』ってバレエの「白鳥の湖」とかから来てそうな気もしますが、個人的には、一見優雅に水面を進む白鳥もその水面下では必死に足をバタつかせて泳いでいる、そんなふうに「見えない部分で“必死に”進もうとする姿」を切り取ったタイトルなのかなあ、とも感じたり。


もうひとつ注目ポイントとして、劇伴が基本ピアノなのですが、渋谷慶一郎の楽曲の数々がキラキラと光っていてとても心地良かったです。100秒予告のセリフの無いピアノのみverでその片鱗がわかるかと思います。
https://youtu.be/qFWyZt8xG78


とにかく凪沙と一果のやりとりや繋がりをもっと観たいと思わせられ、このまま映画の終わりが来ない事を願ってしまったほどに各シーンが印象的でした。
そんな感じだったので、終盤の海のシーンでは様々な感情がグルグル渦巻いて大変な事に。語彙力ないですが「凄いものを観た…」という感じでガツンと殴られた気持ちでした。

因みにベタ褒めな感じではありますが、後半にストーリーの流れとして少し切れてしまう箇所がチラホラあったのが個人的に残念だったかな、と。

あと、一果の最初の友達となった学校友達&バレエ教室繋がりの“りんちゃん”も良いスパイスとなっておりました。ただ、彼女の終盤の描かれ方があまりにも強烈&ファンタジーに見えてしまって、実際のところどうだったのかが気になってモヤモヤ。


語り出したら止まらなくなりそうな映画でした。エンドロール後にも余韻に浸れる一コマがあるので是非最後まで。


[2020-146]
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