深夜にやってる映画好き

すばらしき世界の深夜にやってる映画好きのレビュー・感想・評価

すばらしき世界(2021年製作の映画)
4.0
とにかく役所広司の技量につきる。
尊敬を通り越して畏敬の念すら覚える俳優だ。

胸を締め付けられるような悲哀の表情であったり、画面越しにまさに今こちらへ向けられているような怒り。
幼少期の体験と歪んだ生い立ちが覆い隠しているであろう孤独と生来の優しさ。
獄中で強制的に捩じ込まれた、不自然な几帳面さと社会性。
抑え難く滲み出る境遇への不服、そして自暴自棄。

三上というあくまで物語の登場人物を形作る複雑な感情の見え隠れを、いったいどうすればその粒度で表現出来るのか。言うなればこれは実在する三上本人じゃなかったか。
彼が演じる事で、三上は劇中のみならずそれまでの人生ごと表現された。それができる稀有な役者。数少ない超がつく一流。見る事に価値のある演技。

九州の訛りについても、長年そこに住んできた人間にしか出しようのない声色と抑揚。(長崎の諫早出身とは知らなかった)
世代とか気性的に、うちの親父を見ているようだった。

さて、物語というか役所さんへの感動はここまで。内容については見ていただければと思う。

ただひとつ人生で犯した罪とその報いは、人の想いでどうこうできるものではない。仮にそれが真逆の善行であっても同じ。
人が陽の下でまっとうに生きていく唯一の方法は、もがくしかないということだ。

極道のカミさん言うシャバの世界
「我慢することばかりの割に楽しいことは少ない。でも空は広いと聞きますよ。」が印象的だった。