緑

ロストベイベーロストの緑のネタバレレビュー・内容・結末

ロストベイベーロスト(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

トークショーと、
そのあとに撮影/編集の方と主演のおふたりに
聞いた話を交えつつ。

冒頭のバイクシーンの色味/撮り方/音楽に
心を鷲掴みにされた。
あの音楽は裸のラリーズを意識して作られたものだそうで、
一時期、後追いながら裸のラリーズに
ど嵌りしたことある身としては
そりゃあ刺さりまくるはず!!
まだ若い彼らが裸のラリーズを知っていて、
しかも影響されていることに感動。
色味の昭和っぽさも意識的な作りで、
現代感を薄めるための敢えての表現だったそう。
バイクの疾走感も車の荷台から撮ったそうで、
全部合わさってもう最高すぎる。

予告編でも使われていた
「赤ちゃん、持ってきちゃったみたい」は、
ただの言葉遊びではなく正しく凛子の言葉だった。
脚本すごい。
ちょっと癖を感じる言葉の選び方をしているが、
どれも必然から発される台詞だったので違和感なし。
しかも会話のテンポもいい。

陽平はヒモな時点でクズ確定だが、
受け子やって現行犯で捕まりかけて
助けに来てくれた共犯の友人を見捨てて逃げるあたり
もう言い訳のしようのないどクズ。
カイジでもなかなか出てこないくらいのクズっぷり。
虎たちに囲まれるシーンからの父親からの電話のシーンは、
陽平という人間を知るのにとてもわかりやすかったし、
あれがあったから蔑むという言葉では蔑みきれない
クズな陽平なのに憎みきれなくなった。

便利屋として出入りしているばあちゃんちで
高額布団詐欺に遭いかけたばあちゃんを助けたのに
逆恨みされるところは何となくリアル。
詐欺師どもがタブレットでばあちゃんに見せる
「皇室.com」のサイトはこの作品一番の笑いどころ。
めちゃくちゃおもしろかった!
自主映画でなければ許されなさそう。
自主作品万歳!!

流されまくって生きている陽平が
ふわっと子育てに順応していくところ、
日々閉塞感を感じながら介護職に従事している凜子が
突然赤子を持ってきちゃって
更に突然いなくなるところも
そこはかとないリアリティがあった。
あと、コンビニの仕事できないおじさん!
あんな人見たことないのに
いかにもいそうな感じがすごい。

子育てシーンにおいて、
赤子の泣き声は一切ない。
泣き声は育てる側にとっては過重なストレスになるもので、
省いたからこそ「映画としてのリアル」が成立した。
「赤ちゃんの声を入れていたら
赤ちゃんの映画になってしまっただろう」
と言っていたのもとても納得。
入れないからこそ陽平と凛子の映画になった。
意図的に省き、
赤子が人形であることも隠さず撮ったとのこと。
映画を作る上で必要なことと不必要なことが
明確にわかっている作り手たち。

陽平が受動的に生きていることを
友人に指摘されたところで、
陽平が初めて能動的に動いて赤子を返すのが
オチになるんだろうなと読めた。
が、その先があるとは予想だにしなかった。
陽平が拐おうとする赤子が泣くというのも、
能動的に動いているからこそ
赤子の実在感が増して印象的になった。

陽平と出て行った凛子との
道路沿いでの赤子の奪い合いでの完全無声も良かった。
計算ずくなのか感覚なのか、
どちらにしても天才か。

陽平が自首しに行ったのに
その後普通に外に存在していたのは、
警察に相手にされなかったからとのこと。
何となくはわかったが、
ここは明確にわかるようにしてほしかった。
そうかなーと思ってはいても、
話を聞けなければ自首シーンが
妄想にも取れて解釈に迷ったかもしれない。
ここを含め、まだ粗さがあることは否めない。

監督は人間のダメさを許容できる人だったらしい。
言われて納得できるところは多々ある。
反して自分は狭量な人間なので
共犯の友人が捕まったところの回収もほしかった。

初公開時が95分、
今の公開が92分、
その他に監督の編集による105分バージョンがあるらしい。
見比べてみたいものだ。
緑