kuu

返校 言葉が消えた日のkuuのレビュー・感想・評価

返校 言葉が消えた日(2019年製作の映画)
3.7
『返校 言葉が消えた日』
原題 返校 Detention.
映倫区分 R15+
製作年 2019年。上映時間 103分。
2017年に発売された台湾の大ヒットホラーゲーム『返校』を実写映画化だそうです。
ホラーゲーム『/Devotion/』では、中国の習近平国家主席を標的にしたサーカズム疑惑をめぐる政治的論争に関与してる。
その証拠に、ゲームや今作品中には、中国の指導者に対する好ましくないニックネームである『くまのプーさん』(「小雄威仁」)が、難解な印章文字で隠されていることが目立たない形で言及されてる。
今作品は政治的な題材であるため、中国本土では上映が禁止されているそうな。
国民党政権下の白色テロ時代を題材に描いた台湾産ダークミステリー。
余談ながら、白色テロてのは、中国国民党政府の民衆弾圧の引き金となった1947年2月28日に台湾の台北市で発生し、全土に広がった“二・二八事件”以降、反体制派に対して政治的弾圧が行われた時代。
1947年と1949年から敷かれた二度の戒厳令が1987年に解かれるまで、40年にわたって恐怖政治が続いた台湾の負の歴史。

1962年、台湾では中国国民党による独裁政権のもと、市民に相互監視と密告が強制されていた。ある日、翠華高校の女子生徒ファンが放課後の教室で眠りから目を覚ますと、周囲から人の気配が消えていた。
誰もいない校内をさまよう彼女は、政府によって禁じられた本を読む読書会メンバーで、密かにファンを慕う男子生徒ウェイに遭遇。
一緒に学校からの脱出を図るが、どうしても外に出ることができない。
やがて2人は、学校で起きた政府による迫害事件と、その原因をつくった密告者の悲しい真相にたどり着く。

今作品は20分も経たないうちに何が起こっているのかがわかり、予測しやすくなってしまってたし、このタイトルは以前にも別の名前で見たことがあり、設定やシナリオの詳細は添え物程度やった。
前提となっている現実的で恐ろしい歴史は、今日でも世界中の至る所ではっきりとした現在の危険性を持っており、映画のストーリーテリングに適した状況を提供し、実際、ホラーというジャンルにおいても同様かな。
例えば、冒頭や随所に見られる、その歴史を真摯に描いた今作品の片鱗は、ひどく恐ろしいモンやし、さらに探求する価値があるかな。
それ以上に、積極的なプロットはすぐに見分けがつく。
この事実は、残念ながら、少なくともある程度は、この作品の重苦しいエンタメとしての価値を低下させることにつながっていると思いました。ストーリーの説得力は良いが、ジャンルのブレンドは完璧とは云い難い。
もちろん、観てる側は程度の差こそあれ、馴染みのある映画を見てきたわけで、これが苦手な要素になるのであれば、今作品の大部分はアウトかな。
この点を見過ごすことができるのであれば、今作品はそれにもかかわらず傑出していると云える。特筆すべきは、関連するゲームについて特別な知識がなくても、ゲームとの親和性をすぐに確認できること。
いくつかのシーンでは、そうしたプレイ可能な外観や仕組みを直接語っている。
しかし、これはわずかな味付けに過ぎず、今作品の真髄は、そのまま、心に残るイメージと効果、そして、深く不穏な恐怖の雰囲気にある。
緊張感があり、ホラー映画としての完成度は高い。
血と血糊、シーンの構成とキャラ、プロダクションデザインとアートディレクション、撮影と編集、照明、演技、音楽、効果音、あらゆる要素が妖しい悪夢に向かってひん曲がっており、台湾の歴史が鋭く、ゾッとするほどでした。
映画監督ジョン・シューと製作に携わったすべての人々は、現実の社会政治的暴力の最も暗い部分とジャンル映画の焼け付くような活気を一緒に渦巻かせたこのような作品を作り上げたことは脱帽かな。
すべてが語られ、終わったとき、認識されている欠点は些細なことで、むしろ小言のように思える。
それでも、主観的な欠点や弱点、つまり予測可能性やムラのために、鑑賞体験が多少なりとも損なわれたことは事実。
だけど、概して今作品は巧みで吸収力があり、豊かで満足のいく長編でした。
また、ファシズムという耐え難いほど恐ろしい生きた歴史に照らし合わせると、おそらくさらに価値があと云えるかな。
暴力的な描写に耐えられるのであれば、ホラーが苦手な人でも楽しめると思います。
我々を取り巻く世界の最悪の事態を描き、その歴史を痛烈なイメージで表現している点で、今作品は大きな衝撃を与えてくれました。
アレコレとボヤキながら観始めましたがエンドクレジットが回り始めるころには、その微妙なニュアンスを許してしまってました。
kuu

kuu