かずぽん

アトランティスのかずぽんのネタバレレビュー・内容・結末

アトランティス(2019年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

監督・脚本・撮影・編集・製作:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ(2019年・ウクライナ・109分)
原題:ATLANTIS

過日、テレビ番組で「今観るべき映画」として紹介されました。
ウクライナを舞台に描かれ、(新作ですし)まさにタイムリーな作品だと思いました。私は勘違いしながら観始めたので最初にお断りしておきます。本作の製作年は2019年です。ですから、本作で描かれているのは2014年から始まった「ウクライナ紛争」のことです。

爆撃され廃墟と化した(かつては人々が暮らした)アパート。うっかり車を走らせると突然吹っ飛ばされる地雷の埋まった道路。大量に埋められた遺体が見つかった穴。
冒頭のシーンは、サーモグラフィー・カメラで撮られています―おそらくは遺体を埋めているのでしょう。(まだ生きているのを殴っていました)
そういえば、ジャケットの写真がサーモグラフィー・カメラで映されたものですが、これもラストで出て来ます。


ロシアとの戦争が終わって1年後の2025年。退役兵士のセルギー(アンドリー・ルィマルーク)と友人のイヴァンが戦争が終わった今も戦闘服を着て、人体を模した標的で射撃訓練を続けています。いかに短時間で沢山の標的を撃つことが出来るのか、秒数を争っています。その訓練は激しく異様です。これらの訓練は自主的なものであって、二人は製錬所で働く労働者でした。
セルギーは不眠症、イヴァンはおそらくPTSDを患っています。ある日、仕事(溶接)の不出来を指摘され、イヴァンは溶鉱炉に身を投げてしまいました。工場も採算が取れないという理由で閉鎖になり、セルギーは転職します。戦争で汚染されて水に困っている地域に、水を積んだトラックを運転して配達する仕事です。
そんな仕事の折り、故障した車をレッカーする手伝いをします。故障した車は戦争で亡くなった身元不明者の遺体を回収し、遺体の特徴を調べ、ナンバリングして行くボランティアでした。
その時に知り合った女性カティアを手伝ううちに、彼も仲間に加わることを決めます。

本作を観て、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻よりもずっと前から、戦争(紛争)が始まっていた(続いていた)ことを知りました。
遺体を埋められた場所の様子や、身元不明者として埋葬されて番号だけを記した黒い十字架を立てるシーンは、ニュースで観た光景そっくりでした。
掘り出された遺体を調べるシーンでは、どうしても作り物の遺体やミイラには見えず、もしかして本物?と変な考えも浮かびました。
演じている人たちの淡々とした仕事ぶりも妙に手馴れていると思ったら、皆さん、俳優さんではないそうですね。俳優のプロではないけれど、戦争を体験し、戦争を生き抜いてきた人たちだそうです。
今では聞きなれた「ウクライナ」「ドネツク」「キーウ」「ドンバス」という地名が出て来ます。
戦争はいつか終わるだろうけれど、その後の復興に費やす時間は、戦争の何倍・何十倍もの時間が必要だと言っていました。生き残った人々の選択肢は二つ。此処に留まるか、出ていくか。セルギーとカティアは此処に残ることを決めました。此処で生きる覚悟です。

本作とセットで紹介されている作品があります。『リフレクション(2021年)」です。
本作『アトランティス』で描かれるのは戦争後、『リフレクション』は戦争の始まりが描かれているそうです。両方を観ないと不完全かな?と思いますが、観るだけでも結構キツイです。
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