むっしゅたいやき

異端の鳥のむっしゅたいやきのレビュー・感想・評価

異端の鳥(2019年製作の映画)
4.0
「可以爲堯禹、可以爲桀跖、可以爲工匠、可以爲農賈、在執注錯習俗之所積耳─」。
少年の目を通し、世の騒擾乱理、人の貪婪淫猥、懶惰で狭隘な本性をまざまざと見せ付けられる作品である。
ヴァーツラフ・マルホウ。

本作は一人の少年の、苛烈且つ過酷極まる旅の物語である。
構成的には短い断章の連なるオムニバス形式となっており、コンティニュイティもほぼ其れに準じる。
エッジの効いたメリハリの有るモノクローム映像、極端に少ない台詞と生活描写、無劇伴で登場人物の心象が掴み辛い点、舞台の土地を固定せず、普遍化を狙った点、及び実話の体を採った実証作品である点等、ドラマツルギーへのタル・ベーラの影響が見て取れる。
舞台の時期を「ナチス統制の戦下」とした事で、モラルが崩壊し、異物を排斥するコミュニティを自然に演出させた事は評価出来る。

冒頭優し気で、少し臆病で在った少年の目が、生きる為、旅の中で傷を負い光を失い、其れに伴って悪業へも大胆不敵に成って行く様が傷ましい。
ラストシークエンスでの感情の発露、眠る父を見遣る宥恕の視線に、漸く冒頭の彼に会えた気がする。

扨、一点本作で面白く思えるのは、作中での「仮想敵」を、“ナチス”でも“ホロコースト”でも、“コサック”や“ソ連軍”でも無く、“一般市民の弱さ、卑怯さ”に置いた点である。
戦後チェコで起こった、「レジスタンス神話」の崩壊と同じ文脈であろうが、ナチスやソ連、コサック兵だけで無く、レジスタンス兵も、一般民もが野蛮で残酷な事をしていたのだ、とマルホウは言っているのである。

冒頭に荘子の言葉を挙げたが、人は規範を持たねば悪に流れ易い。
本作で少年に、不器用乍らも一つの規範・法を教えたのは、ソ連兵ミーコフだけで在った。

評価はこの点を考慮している。

尚、玉蜀黍と、ヤギの乳搾りのメタファーには、「僕も!」と思ってしまった事を此処に懺悔しておく。
むっしゅたいやき

むっしゅたいやき