おさかなはフィッシュ

劇場のおさかなはフィッシュのレビュー・感想・評価

劇場(2020年製作の映画)
3.5
始まってすぐの喫茶店のシーンで、永田のヘンな飲み方を無意識にか隣で真似てしまう沙希がかわいい。(その前後では普通の飲み方をしている。) つい他人に合わせてしまう、ひ弱さとやさしさ。

あらすじを読んで想像していたほどではない泥沼のはまり具合だったものの、本質的にはそもそもそれ以前の問題だったというか、最後のシーン、舞台と客席という立ち位置、埋まることのない隔たり……。
「この世は万事芝居の舞台」。もっと違うように、違う役を演じられたら。いま持つ不器用さでしか演じられない。
あるいは舞台が世界だったら。「演劇ができることって何だろうって最近ずっと考えてた」「全部だったよ」「演劇でできることは現実でもできる」「だから、演劇がある限り絶望することはないんだって」。だのに、だから、舞台にもまた沙希がいるというのは、人形芝居のような哀切さがあるな。

山場のシーンがよかったな。特に蛍光灯の下、畳の上という卑近とも言えるシチュエーションでこんなにも映画になるのかという感動があった。コロナ禍にあって、オンライン飲み会や芸能人のリモート出演で顔を照らす蛍光灯の白い光は、もともとそこにあるはずだったものが失われた象徴のようでどうにも好きになれなかった。そんなこともあり、余計に感動した。
少し強引に結び付けると、私の好きなヴィスコンティ映画にも、当時を再現するため蝋燭の光を照明にして撮影したら暑くて暑くてキャストが大変だったというエピソードがある。蛍光灯にしても蝋燭にしても、要は真実らしさということなんだろうな。
桐島で顧問の先生に「半径1m以内の映画を撮れ」みたいに言われるやつ、当時は「はあ?それなら普通の人間には一生地味くさい映画しか撮れねえって言うのかよ」と思った気がするけれど、その画に血肉は通っているか、語られていることに欺瞞はないか、そういうことなのかなと思った。
イタリアやフランスの映画から観始めたのが、また一つ邦画が好きになっていく。よかったな。



初めは同性ということもあり沙希ちゃんサイドで眺めていたけれど、いや待てよ、私のパーソナリティ的には永田の方が近い部分があるぞと気づき、余計にグエエとなる。しっかり生きよう。
でも、梨を剥いてあげたくなるのはすごく分かるな。妹に果物を剥いてあげるのは、人生の最も美しい記憶の一つだ。

映画館に観に行ってみようかと思っていたら、アマプラで公開されているのに気づく。こういう同時公開は邦画では初めてだそう。家で観られるのは便利だけれど、少し罪悪感があるかもしれない。これから世の中はどうなっていくのかな。