butasu

劇場のbutasuのネタバレレビュー・内容・結末

劇場(2020年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ズシンと重く刺さった。ラブストーリーでここまで心を揺さぶられたのは久々。

主人公の永田は本当にクズなヒモ男。そして彼をとことん甘やかす彼女の沙希はまるで聖女。これが映画を観てしばらくの印象。そしてその印象が変わるわけではないのだが、物語が進むに連れて登場人物の色々な側面が追加されていく。

永田は現実逃避を続ける弱い男だが、その自覚が十二分にあり、だからこそそれを受け止めるのが恐ろしくてさらに逃げ続けてしまう。永田は沙希のことを決して"都合の良い女"だとは思っていない。むしろ何よりも大切で愛おしくて守りたい存在であると思っている。だからこそ彼女に失望されることを何よりも恐れ、心を閉ざし、意味もわからずイラつき当たり散らす。そして彼は中盤、自分が守られていた側だったのだと気付く。しかしそれでも弱い彼は沙希を救い出してあげることができなかった。

沙希は本当に聖女レベルで永田を甘やかすのだが、それは果たして彼のためだったのか。彼女は夢を持って上京したものの、特に何も上手くいっていないし、自ら行動を起こすこともできない。そんな彼女が見つけた役割が"夢を叶えるために頑張る彼を支える自分"だったのではないか。彼女は東京のどこにも見つからなかった自分の存在意義を確かに彼と暮らすあの家に見出し、日々を繋いでいたのではないか。だからこそ永田が家に帰ってこなくなってしまったことで沙希は壊れていってしまったのだ。沙希が言う「ここが一番安全な場所だよ」の言葉は、二人にとって重い意味を持っていた。永田にとってはいつまでもあの部屋が安全な場所であり続けたのだが、沙希にとってはそうではなくなってしまった。

序盤の可愛らしい不思議ちゃんの印象から、徐々に人間味をあらわにしてくる沙希を演じた松岡茉優が素晴らしかった。山崎賢人の演技は正直イマイチだと思ったのだが、見た目の雰囲気で何とかアリにしていた感じ。

終始永田のモノローグで進む話であり、そのモノローグがかなり良いので、これは原作が相当良いのだと思う。未読だが、とても読んでみたくなった。しかしラストシーン、台詞読みを始めた二人の部屋が開き劇場となり、それを見守る沙希が泣くあのシーンのカタルシスは、やはり映画ならではのものだろう。エンドロールで一人劇場に残った沙希が、最後名残惜しそうに去って終わった途端、こちらも泣きそうになってしまった。

確かにお互いのことが大好きだったのに、どうしてこうなってしまったんだろうと思う二人。でも多分過去に戻ってやり直せたとしても、きっとこうなってしまう二人だったのだろう。沙希が言う、「ながくんは何も悪くない、だってずっと変わってないんだから、悪いのは年をとって変わってしまった私」という別れの台詞が心底切ない。演劇をやり続ける永田とそこから去っていく沙希で終わるラストシーンは、何重にも心に来るのだ。

素晴らしい作品だった。
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