みきちゃ

犬王のみきちゃのレビュー・感想・評価

犬王(2021年製作の映画)
4.4
「自分で自分を名付けるのか?!」

室町時代。大衆の心を動かしたポップスターがいた。当時は観阿弥/世阿弥と並ぶほどの人気を誇っていたが、なぜか曲は1つも残されておらず、現代に伝わっているのはその名前だけ。

冒頭の「奪われて失われた私たちの物語」で、ああ、だから野木亜紀子さんなんだ、と腑に落ちてすんなり物語に没入。「歴史」というが、「史実」というが、それは一体なんなのか。それは、後世に伝えるために書物などの形にして残すことが出来る権力者が好んだ物語。読み書きが出来るだけの身分の識者が携わる案件。事実なのか、客観性は十分なのか、視野の広さはいかほどなのか、、、そんなことは現代の我々にはわからない。将軍に都合の良い作り話、誇張された自慢話ではないと誰が言い切れる。盲目の彼が感じる日々。仮面の彼が覗いている日常。どんな下々のその他大勢の個々にも物語がある。

「友魚」が「友一」を与えられ、呼ばれもしない名を葬った犬王と出会って、「友有」になる。彼らには超えるに値する共通点があり、成し遂げるべく支え合う。犬王の物語を歌うために友魚が有る。友魚の琵琶で舞うことで犬王は輝き極まる。だから、そんな二人がお互いを守ろうとするときは。そのときは。

友魚の声が耳の奥で残響している。
犬王の仮面級の表情が脳裏に焼き付いている。

性自認に触れる場面がさらっと組み込まれていた。アヴちゃんが「もしも私が男の子を全うしていたならば」という表現を使って話をしていて、性別を軽々と超えているように見えているアヴちゃんにも悩み葛藤した日々があったんだなあと気付く。そんなの当たり前かもしれないけど、あなたのかけがえのない美しさとかっこよさと七色ヴォイスには羨望の眼差ししか集まらないので!!

アヴちゃんも森山未來も、子供時代の声も自分たちでやったのね…??エンドロールで目を疑ったわ。すごくない???この二人の声が際立つとはいえ、松重さんも、えもたすも、大変な上手さ。津田健の素敵さはわざわざ言うまでもなく。足利嫁の声はもなんかすごかった。メンズ優勢社会での女性最高序列者としてのなにかを表したかったのかどうなのか、ピカイチきゅるっきゅるで、流れから浮いてて面白かった。じわるものがあった。

「鯨はまだ来ない!」コロナ渦で奪われた野外フェスが、ここにあった。このフェスにノレるかどうかが好みの分かれ目かも。もしも私が監督だったなら、字幕入れようかどうか死ぬほど悩んだだろうなあ。楽曲についてはちょっと言いたいことはある。監督、脚本、出演者。ビッグネームが並ぶとハードルあがるし、それぞれのファンが異なる期待を持ってやってくるから、全部に対応するのは至難の技だよなあ……。

勢いで原作小説を買ったので今から読む。

桜。桜。風光明媚。感動。

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古川日出男著の原作『平家物語 犬王の巻』を読了。べべんべんべん!駆けた!走った!速い速い!室町時代を生きた2人のポップスターの物語は疾風迅雷。先に観た映画の余白が埋まり、小説では見えない部分が湯浅映像で補完され、登場人物が松本大洋の絵で脳内動いて愉しかった!犬王あっぱれ!友有に幸あれ!


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映画を観た翌週、アヴちゃんが平家の末裔だとつぶやいていた。なんたるめぐりあわせ!!物語は紡がれていく。

https://twitter.com/qb_avu/status/1534432268181458944?t=kUAOP3B-TxnpV9_gvcqwBQ&s=19
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