PikKa

カセットテープ・ダイアリーズのPikKaのレビュー・感想・評価

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パキスタンという生まれ故郷や宗教観を背景に、一家の主である自分以外は家族であろうと意見すら持つことを許さないほど厳格で古風な父親を持つ主人公ジャベド。
それは移り住んだイギリスでの生活でも変わることがない。

”何もない最低な町” ルートンを舞台に、一部の町民や学生たちからの人種差別に加え、家庭でも常に父親の絶対的存在感に萎縮し抑制され窮屈さを感じ続けていたジャベドが、あらたな友人やブルース・スプリングスティーンの音楽に出会い、それまで知らなかった世界や価値観、自我に目覚めていく姿が印象的。
父親との衝突を繰り返しながらも自分の心の叫び、葛藤、願望を文章に解き放ち、自分らしい人生を切り開く姿が爽快。

家族の人格や意思を尊重しておらず傲慢に見える父親だけど、それも自分たちがパキスタンや今いるイギリスで苦しい経験をしてきたからこそ。
子どもたちの将来を案じるがあまりに緩みを許さず厳格な規律で縛り付けてしまう姿に隠された、彼なりの想いや不器用な愛がせつない。

音楽によって刺激を受け背中を押され、自分の手で未来を掴もうとしていくジャベドの姿と、今まで気付かなかった息子の本来の姿と成長を目にして次第に認めていく父親の眼差しにあたたかさとやさしさが溢れていて素晴らしかった。

 - 自分の願望へ橋を架けたい
   それが僕のアメリカン・ドリーム -

最後にジャベドが卒業生スピーチに込めた想い。
チャンスは待つものでも与えられるものでもなく、諦めずに繋げる努力をして自分自身の手で掴むものだとあらためて実感する。
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