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ANNA/アナのトルーパーcomのレビュー・感想・評価

ANNA/アナ(2019年製作の映画)
4.0

#ANNAアナ
リュックベッソン監督による女性スパイ映画。
主演のサッシャ・ルスの綺麗さと、観終わると理解できる構成が魅力。

昨年の公開時は緊急事態宣言が明けた直後くらいで、今よりもまだ外出への警戒感が強かったため興収はかなり低め。
自分も劇場スルーしてしまいましたが、個人的観たい作品リストにはずっと入っていてやっと観ました。Amazonプライム見放題にきています。

多少血が出たりはするけれど、グロいような描写はあまりないので、宣材写真などで返り血浴びてる主人公を観てバイオレンス描写無理、って感じるような人でもビビりすぎることはない程度です。



【1】美女を超美女に映し出すリュックベッソン

『LEON』(1994)のナタリー・ポートマン
『ヴァレリアン』(2017)のカーラ・デルヴィーニュ
『LUCY』(2014)のスカーレット・ヨハンソン

なんだコレっていう部分もけこうあるベッソン映画ですが、美女を超美女としてスクリーンに映し出す彼の腕は一級品。

彼の映画に主演する女優はもともと綺麗な人たちだけれど、他の作品に出ているときより圧倒的な華とオーラにあふれている。
特に、苦悩して泣きそうな表情や、そこを乗り越えて腹を決めた時の目線が魅力的。

本作で主演を務めるのはロシアのスーパーモデル、サッシャ・ルス。
彼女の演じるアナも、過酷な人生に涙を流す姿や、決意をした後の強い目線/あまりに綺麗すぎる青い瞳が印象的で、スクリーンで観るべきだったなとちょっと後悔しています。


サッシャについてはディオールあたりのモデルとして百貨店の化粧品売場などで何度か見かけたので、顔は知ってた程度。

劇中でも表の顔はファッションモデルという設定なのですが、正真正銘ホンモノなので、序盤のモデル仕事での撮影シーンは流石の一言です。

観終わった後ちょっと調べたら、なんとベッソン監督の『ヴァレリアン』に出演していたことが判明。
ヴァレリアンは10回以上観た映画なので「ウソでしょ!?」と思って確認したらパール人のプリンセス、ミホ役だった。

改めて両作品を観返したら、パール人の王女はたしかにアナだったし、圧倒的細身のアナはたしかにパール人だった笑


アトミックブロンドやブラックウィドウなど、近年女性スパイの作品も少しづつ増えているけれど、アナはそれら競合作のスパイたちよりもとにかく綺麗でクールでスタイリッシュ。

これだけ華奢でこれだけ強いっていうのにリアリティはさほどないけれど、とにかくクールだし、常に苦境ばかりなので応援したくなるキャラクターです。


【2】ストーリー
不遇な生活で底辺にいる女性 アナが、KGBにスパイとしてスカウトされ、上司の過酷な指令をこなしながら、自由を求めて必死に生き残ろうとする話。

後述しますが、話の構成が面白いので裏切りや視点の転換も多く、アナに共感し続けながらも観客の感情が次々と変化していくところが本作最大の魅力です。

2回観てもけっこう楽しい作品かもしれません。
ちなみに吹替版はツダケンこと津田健次郎氏が出演しているので、1回だけ観るにしても2回観るにしても吹替版はけっこうオススメ。

英語とロシア語が混ざる作品なので、英語セリフのところは日本語音声で/ロシア語のところはロシア語音声&日本語字幕で出るという点からも、全部字幕が出てしまう字幕版よりも、吹替版のほうが見やすい気がします。


<以下、ネタバレあり感想>




【3】アクションシーン
最初の殺しのシーンは割とサプライズ感あって一気に引きこまれるし、最大の見せ場となるレストランのシーンはちょっと『キングスマン』(2014)の教会のシーンっぽい派手さで、割と見応えがありました。

演者がとにかく細身で華奢なので、シャーリーズセロンやスカヨハみたいに相手に飛び蹴りかましたりするようなアクションは少なめで、サイレンサー付きの銃でプシュップシュッと一撃で仕留めていく姿がカッコいい。

役者の男女問わずですが、ウェイトの軽いキャラクターが屈強なモブをキックパンチで倒していく描写が個人的にあまり好きではないので、本作のアクションはかなり好き。
割れた皿を即興で武器にしたりするあたりはジョンウィックシリーズを思い出すようで新鮮だった。

あと、フォークがエグい。フォークがエグい。フォークが、エグい。


【4】マトリョーシカ構成
映画の構成上本作のいちばんの特徴は、時系列がかなりいじられている点にあります。
アナの物語が20分くらい描写されては「○カ月前」みたいに話が戻って背景事情が後出しで語られる。

人によっては「見づらいな」と思うかもしれませんが、最後まで観るとなるほどなと思わされる構成で、観客の心情操作の点でかなり効果的だったと思います。

最終盤にきてようやく理解できるのですが、この特殊な構成は"マトリョーシカ"がテーマなんですね。
ダルマみたいな大きな人形を開けると、中に同造形で中型の人形が入っていて、それを開けるとさらに小型の人形が入っているロシアのオモチャ、マトリョーシカ。

冒頭、市場でマトリョーシカの売り子として登場するアナ。

平凡なマトリョーシカ売りからモデルに抜擢されるシンデレラストーリーの主人公
・・・の中を開くと、実は殺し屋!?

【3年前へ戻る】
DV彼氏と底辺生活を送る荒んだ女性がスカウトされて人生をやり直す露KGBの女スパイ
...の中を開くと、裏切者!?

【6カ月前へ戻る】
半ば強引に引きこまれ、自由を得るために最後の任務に挑むCIAとの二重スパイとなったアナ。
彼女の人生を解放してくれるのはやはり自由の国アメリカ側か。
...の中を開くと、彼女はKGBからもCIAからも離脱

【3ヶ月前へ戻る】
上司オルガと結託して三重スパイに!
過酷な彼女の人生を解放してくれたのは、同じ女性のオルガだった。


『ミッション・インポッシブル』(1996)に代表されるように、スパイ映画といえば裏切り/二重スパイの展開も魅力のジャンル。
本作は二重スパイ/サプライズものとしてもなかなか秀逸な構成になっています。

マトリョーシカが1つ開かれるたびに彼女の秘めた立場が明らかになり、周囲のキャラクター含め、前章の出来事がまったく別物として見えてくる効果がある。

時系列いじりの展開は一見するとわかりづらくなってしまうリスクがありますが、本作は30分おきくらいに巻き戻るので、前のシーンの記憶が新しいうちに真相が明かされていくことで混乱なく観ることができた。



【5】キャラクターについて

◆オルガ(ヘレン・ミレン)
KGBの女上司。個人的助演女優賞をあげたくなる名演。

007もM:Iも、最近は信頼できる仲間と任務を遂行していく話が多い。
けれど本作は彼女の存在によって終始作品に緊張感が張りつめていて、本来スパイ映画ってこういうスリルに満ちているべきだよな!って思わされた。

終始悲惨なことばかり降りかかるアナの人生を見事に解放した最後の結末も最高。
ラストシーン、満面の笑みでの「Bitch!」に拍手!


◆アレクセイ(ルーク・エヴァンス)
終始、信頼できるやつ感を漂わせている。
洋画ではロシア人って割と信用できないキャラクターが多いし、彼はワイスピシリーズの悪役(ショウの弟)の印象が強いので、ちょっと新鮮ではあった。
同じ人なのに作品によってこんなに雰囲気を変えられる、俳優ってすごいなと改めて思う。

けれど、結局彼は組織の一員であって、アナにとって心から信頼できるパートナーにはなれないっていうのが悲しいね。


◆レナード(キリアン・マーフィー)
『インセプション』(2010)のドラ息子の人が、アナの希望となるCIAのエージェント役で登場。
一見信用できないようでありながらも、アナのことを考えてくれている演技がなかなか良かった。

熱いものをもっているけれど、計画的効率的に物事を判断していくっていうキャラクターが、ロシア人目線から見たアメリカ人のエリート像なのかなって感じた。


◆モード(レラ・アボヴァ)
アナの恋人で同性愛者。
演者がとにかく美形。日本人にはアナよりもウケがいいルックスだと思う。

割と古典的な、主人公に都合のよい恋人っていうキャラクターだけれど、壮絶なアナの人生を見せられる中、モードの無邪気な感じが癒しになっていて、つまらないキャラクターとまでは感じなかった。

2人の男性恋人とはやたら情熱的にからむSEXシーンを繰り広げるアナ。
おそらく、序盤に登場するDV彼氏/表向きの恋人モードとの差別化なんだと思うけれど。

結局のところ、アナは自分を自由に解放してくれる相手にしか心と体を本当には開けない。
だから、DV彼氏はともかく、モードとも情熱的なSEXができないっていうのが悲しい。

そういう意味ではCIAが乗り込んできてひたすら泣かされるモードのシーンは絶対必要だったのかもしれないですね。


【6】その他
・任務のたびにウィッグを変えて、衣装も様々で絵的に楽しい。モデルである演者の魅力が最大限に活かされている。

・オルガの待つ車に向かってエッフェル塔前広場をアナが歩くカットが綺麗

・指が必要なの→よし切れ、がかわいそうすぎて


【スコア】
★4.0で。

ベッソン監督の作品は割と好きなんだけど、毎度ハードルを下げて観始めてしまうクセがあります。
本作もそれほど高評価の声を聞いていなかったので、ながら見くらいのつもりでハードルかなり低めで観始めたら思った以上に面白かった。

観終わった後は4.5かな!とか思ったけど、冷静に考えると4.0くらいかな。
初見時はなかなかサプライズもあって楽しいし、構成を理解した上で観る2回目も楽しい映画だと思う。字幕吹替で連続で観ちゃいました。

アナの人生終始辛いけど、最後その形で救われるのかー!っていうのも素敵で、鬱映画風だけど鬱エンドじゃないも◎
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