阪本嘉一好子

西ベイルートの阪本嘉一好子のレビュー・感想・評価

西ベイルート(1998年製作の映画)
5.0
監督の弟が主役のターレック( Rami Doueiri)、西ベイルート(モスリム教が多い )に住み、東ベイルート(マロン派キリスト教が多い)にあるフランスの学校に通っている生徒役。この学校ではフランスの学校のミッションにのっとって創設されていて、ベイルートはブランスが作った国で、中東のパリで、平和をモットーにしていると先生が。

ターレックはあまりいい生徒ではなさそうだし(私にはそう思えないが)口答えも多いのでこのフランス学校の先生から好かれていないようである。ある日立ち番させられた。この日、校舎の窓から外を眺めていると、兵士たちがバスを襲撃した(1975年4月16日)この日から東西ベイルートをクリスチャンとモスリムに分ける内戦が始まる。(ベイルートは宗教争いで東西がクリーンラインという分離帯で二つに別れる)


そのほか、シリアの穏健合意を嫌うモスリム 左翼のカマール ジェンブラード(Kamal ー映画では庶民が彼のポスターを掲げて行進している )とPLO (アラファット)は汎アラブ主義国家を実現させたがる。


この話は、この内戦が終わらないのと同じように、長い話になるので、ターレックを中心にコメントを書く。彼自体、十分満たされた生活を送っている。しかし、悪ふざけが好きで、小うるさい少年時代だったようであるが、人懐っこく愛想がいいので、店の人やあちこちの人に好かれる。満足している生活の中で不満をためていた、内戦は彼を興奮させた。日常茶飯事の生活から逃れられたからだ。マロン派キリスト教軍がモスリム 教徒をチェックポイントで調べ追い返す。学校は閉鎖、ベアールベック(レバノン地図でBaalbekベイルートの東北にある) マロン派の女友達ができるし、危険を冒して娼婦のところに行くこともできる。しかし、ターレックの親友オーマー( Mohammed Chamas)は父親に、ラマダンに絶食しなければならにとかモスクに行けとか、Oum Kalthounは聞いてもいいが、ロックンロールを諦めろとか言われ、モスリム 社会全体が原理主義の方向に移行していくのを感じとることができる。

今、Covid -19で学校が閉鎖されたけど、閉鎖された時は生徒や学生にとって勉強から解放されて、ターレックと同じような気持ちなのに違いない。しかし、それが長く続くと、それに伴い弊害が出てきて、ストレスも溜まるし、身の危険にもなってくる。無関心ではいられなくなるターレックはそれを徐々に感じて、最後は涙を流す。
この涙は、今まで嫌だと思っていたことをしたいという涙より、生活、家族崩壊、先の見えない不安定さとそれに伴っておこる家族の誰かを失うかもしれないという悲しさだと思う。 経済的にも教養も(母親は弁護士、父親は?教養があるフランスのクラッシク文学の一部を暗記している: エルシド(EL Cid)溢れている両親を持って、ベイルートのフランスの学校に通っている。このエリートの世界の中で、悪ふざけで楽しんでいたものが、パンを奪い合ったり、殺し合うことが現実になっていく。戦争の恐ろしさを体験していないターレックが、その中に入り込んでいく恐怖感。私は経験したことはないがなみたいていではないと思う。

母親は近所にいるパレスチナ難民の家族に好意的だが、周りのものはターレックを含めて難民を正当に扱わない。それでも強く生きる難民の女性。
父親は外国に出たらこう言う難民になって軽蔑されるのが嫌だからベイルートにとどまっていたいと言う。アメリカ人は自分たちのことを『sand Nigger』と呼んで軽蔑すると。そして、ブラックリストに名前がのる。テロリストにも、麻薬の密売人にもともいう。自分は他の国に属したくない。ここにいると。痛みは一人だけじゃない、世界に向かって叫びたい。何千人も死んでいるのに、ゲームは(この内戦)をまだやってると。

背筋がゾクッとするような強烈な言葉を私に与えた。


監督に一言:これは『判決The Insult(2018)』 とのコネクションがあるが、我々 ベイルートの知識があまりないものにとって土地勘をあたえてほしい。Baalbek, Zeyruniなどの位置を少し字幕で表示してほしい。そうすると、もっとわかりやすくなり、ベイルートを知りたくなるだろう。