horahuki

ラストナイト・イン・ソーホーのhorahukiのレビュー・感想・評価

4.0
時代遅れの牢獄はまだ消えない!

「あの時代は良かった…」的な郷愁に対して、イヤイヤ全然良くないから!を突きつけるみんな大好きエドガーライト製サイコホラー。『ホットファズ』『ワールズエンド』等で「過去」に対して喧嘩を売ってきた監督が、今度は過去の“極端な”美化に警鐘を鳴らし、そこにフェミニズム要素を加えた良作!

アニャちゃんが60年代の美女として登場するのだけど、お顔立ちとか、当時の人としか思えないクラシカルな雰囲気出しまくってて最強だった!しかも歌もできてダンスもできるとか、アニャちゃんのキャスティング完璧すぎる!

主人公(マッケンジー)がデザイナーを目指して田舎からロンドンに出てきたは良いけれど、華やかなショウビズ界の闇を目の当たりにする…って感じの『Starry Eyes』的な良くある展開。本作が異質なのは、闇を体験するのは自分ではなく、60年代に生きる歌手を目指す美女(アニャちゃん)。主人公は毎晩のように夢の中でアニャちゃんに同化し、ロンドンの闇に飲まれていく…。

本作と同じく60年代の華やかなスウィンギングロンドンの裏側に焦点を当てたアントニオーニ『欲望』からの影響が色濃く、あの“テニスボール”の如く、必死に追い求めた「憧れ」は虚構でしかないとの実感の先に待つのは、本作では鏡像。その鏡像=自身のあり得べき可能性をも包み込む自覚を持った姿には『パーフェクトブルー』のようなポジティブさと病的感覚の両輪を備えた気持ち悪さがあった。夢を追うことは病的であり続けること。鏡像からウインクで監督自身の姿勢までも表現してしまっているのが非常に『パーフェクトブルー』に近い。

他にも強烈な色彩と殺害演出に『モデル連続殺人』、男性恐怖に起因するレイプ等々の不安症に『反撥』の影響もそれぞれ見受けられ、サイコホラーにジャーロとオカルトホラーをも交えたようなホラーにおけるサブジャンルのミックスが監督らしくて楽しい。

監督を降りた『アントマン』以降、初期作に見られたような高速編集とか極端なほどの反復の連続とかは段々と見られなくなったけれど、エスタブリッシングショット無くいきなり人物から入り繋がりを広げていく華麗な導入や、テンポの良い大胆な省略とかロング、超ロングを挟んでのミディアム→クローズのカットインとか、いつもの“らしさ”も多々あったし、何よりも鏡とかダンスシーンのスムーズな主演2人の入れ替わりがCG無しの全部アナログ演出というのが頭イカれてるくらいに凄い!

旅立ちの際、押しつぶされるイメージを与える大きな車が画面に入り込む向きとそれに対応するかのようなロンドンへ向かう電車の方向に展開を暗示し、姿見のママ→バックミラーの運転手→鏡像アニャちゃんとネガティブの積み重ねを三段階で行いつつ、それぞれに別のネガティブを象徴させることで、全てを「鏡像」として集約するうまさ。そしてそのネガティブはマネキンと幽霊たちのマッチカットによって自身の夢とロンドンの闇を同質化させたりと、あらゆるものを映像によって繋ぎ合わせ主題を補強していくのも見てて気持ちが良かった。しかも決まって闇から現れる某キャラと階段の影の演出で大概わからせるのも良い!

個人的に嬉しかったのは60年代の劇場に傑作オムニバスホラー『テラー博士の恐怖』のポスターがあったこと。チョイスが流石のエドガーライト監督!👍
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